第二章
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第二章
「私は。生まれてすぐにある盗賊に攫われ羊飼いとして暮らしていたと」
「羊飼いに!?」
「攫われたことは知りません」
まだ赤子の彼がそのことを知る筈もなかった。
「そのままマケドニアの羊飼いに拾われそこで暮らしていました」
「マケドニアに」
「あの様な遠くで」
「その通りです」
マケドニアはギリシアの北にある。ギリシア人から見ればトロイア人と同じ異邦人である。この時代はバルバロイと呼ばれ蔑まれていた。アーレスを信仰していた。
「そこで暮らしていましたがある日アーレス神の神殿にいつものように礼拝をしていますと」
「そこで言われたのか」
「ぞなた自身のことを」
「その通りです。ですからここに戻って来ました」
その眩いばかりに整った顔でまた両親に告げるのだった。
「このトロイアに」
「だがその証はあるか」
「これでございましょうか」
王の言葉に応えて左肩を見せる。そこには青い剣の形をした痣があった。
「この痣のことでしょうか」
「その通りだ。見よ」
王もまたここで左肩を見せた。そこにあるのは同じものだった。
「これだ。これこそが」
「はい。何よりの証です」
静かに述べるパリスであった。
「これこそが」
「そうだ。我がトロイア王家代々にある証」
その痣こそがだった。これでパリスが誰なのかはっきりした。
「我が息子よ」
「父上・・・・・・、母上・・・・・・」
「そなたを迎え入れよう」
親子は今お互いの顔を見合わせて感激に打ち震えつつ言葉を交えさせた。
「今ここにな」
「有り難き御言葉」
こうしてカサンドラの予言の通りになった。トロイアの者達は彼女の予言を嘲笑ったことを忘れて今は彼の帰還を喜ぶのだった。だがカサンドラはここでまた予言をするのだった。
「滅びるわ」
「滅びる!?何がですか」
「このトロイアが」
トロイアに古くから仕える神官ラオコーンに対して答えるのだった。
「パリス兄様のせいで」
「またどうして」
「ヘレナ様を手に入れられて」
こう言うのである。
「そのせいでギリシアの軍が来て」
「ヘレナ様といいますと」
ラオコーンはその名を知っていた。彼だけではなくトロイアの者もギリシアの者も全てが知っている名であった。その名を持つ者こそは。
「あのギリシアきっての美貌を持つと言われている」
「そう、スパルタ王妃の」
「あの方をですか」
「兄様は望まれます」
彼女はまた言った。憂いと怯えに満ちた顔で。
「ヘラ様とアテナ様とアフロディーテ様のどれかを最も美しいと問われ」
「そして?」
「アフロディーテ様を選ばれてこの世で最も美しい美女を与えられるのです」
「それがヘレナ様ですか」
「そうです」
項垂れてラオコーンに答えた
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