第百七十四話 背水の陣その十一
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「兵も思ったよりやられていませぬ」
「引き分けといったところですか」
「確かに度肝を抜かれましたが」
謙信がだ、単騎陣中に飛び込んできたことはというのだ。
「それでもですな」
「何とか防ぎました」
「やられた兵も少のうございます」
「うむ、今日は何とかなった」
柴田は腕を組み難しい顔でこう述べた。
「今日はな、猿が考えた丸太も使ったしのう」
「それはようございましたな」
その羽柴が愛嬌のある顔で笑って柴田に応えた。
「まことに」
「猿の手柄じゃ。殿にもお話しようぞ」
「では褒美で」
「その話は後じゃがな」
それでもだ、褒美は弾んでもらえるというのだ。
「よいな、しかしじゃ」
「若し明日もこの勢いで攻められれば」
その時はとだ、丹羽が言ってきた。
「危ういかと」
「うむ、やはり上杉は強いわ」
「明日殿が来られますな」
「必ずな」
「では持ち堪えれましょう」
明日一日位なら、というのだ。
「今は」
「そうじゃな、今はな」
「殿が来られるまで待てば」
その時まで持ち堪えればというのだった。
「我等は加賀の北を手に入れられますか」
「そこから能登、越中じゃ」
「そして越後にも」
上杉の本拠だ、言うまでもなく。
「攻められますな」
「必ずそうなるわ」
「ではですな」
「明日一日守ろうぞ」
位ま彼等がいるこの場でというのだ。
「そうしようぞ」
「そうですな、ここは」
丹羽も柴田の言葉に頷いた、そしてだった。
ここでだ、皆飯を食った。前にいる上杉の軍勢からの夜襲に警戒しながらそのうえでそれを口にするのだった。
その中でだ、明智はほっとした顔で斎藤や秀満達に言うのだった。
「恐ろしい戦じゃった」
「はい、確かに」
「上杉との戦もまた」
二人は飯を食いながら明智の言葉に応えた。夜の闇が急激に周りを覆ってきていた。
「激しいですな」
「それも実に」
「しかもこの度は数が同じじゃった」
ほぼだ、互角だったと言う明智だった。
「だから余計に辛かったわ」
「同じ数で上杉と戦うこと」
「それはですな」
「互角に戦えたのは後ろかないからじゃ」
川の方を見ても暗がりしか見えなくなっている、川はもう夜の闇の中にその姿を消してしまっていた。何もかもを。
「だからじゃ」
「背水の陣ですな」
「それですな」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「だから戦えたのじゃ」
「人は後がないからこそ死にもの狂いになれますな」
斎藤がこう明智に話した。
「だからですな」
「そうじゃ、それでじゃ」
「では明日も」
「そうして戦いな」
そのうえでだというのだ。
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