第一章
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の予言は何の意味もなさないのだ」
これ以上はないという残酷な言葉であり予言だった。予言とは誰かが信じるからこそ予言なのだから。アポロンはカサンドラにこれ以上はない術をかけたのだった。
だがここでアポロンは思い直した。それではあまりにも惨たらしいと。彼にも自分を振った相手へのあてつけに対する後ろめたさがあったのだろう。ここで言うのだった。
「しかしだ」
「しかし・・・・・・」
「一つだけ言っておこう」
こうカサンドラに言ってきたのだった。
「そなたのその誰も信じない予言をだ」
「はい・・・・・・」
「信じる者はこの世で一人だけ現われる」
「この世で一人だけ」
「そうだ。一人だけだ」
彼はまたカサンドラに告げた。
「一人だけだ。その者に会えばそなたは助かるだろう」
「私は・・・・・・救われる」
「その者に巡り合えることを祈るがいい」
最後にこう告げてカサンドラの前から姿を消すアポロンだった。一人になった彼女は絶望の中に一条の希望を感じながらデルフォイを後にした。そのままトロイアに戻ったがやはり彼女の予言を信じる者はいなかった。
「兄様が戻って来ます」
彼女はまずこう予言した。
「このトロイアに」
「兄様!?兄様ならもういるじゃない」
「そうよ」
まず彼女の姉妹達が彼女の言葉を笑って否定した。
「ヘクトール兄様が」
「他に誰がいるのよ」
「それは・・・・・・」
彼女はその兄の名を知らなかった。だから答えることはできなかった。答えることができないので俯くことだけしかできなくなってしまったのだ。
「ほら、見なさい」
「貴女はずっとデルフォイにいたから知らないのよ」
「そうそう」
姉妹達はこう言ってカサンドラの今の予言を否定した。そしてこれは姉妹達だけでなく両親も宮中の家臣達も、そして民達もであった。やはり誰もカサンドラの言葉は信じなかった。
「そんな筈がない」
「有り得ない」
こう言ってだ。彼女の予言は誰にも信じてもらえなかった。しかしトロイアの街の酒場で一人だけこう言う者がいたのである。
「そうだな。戻って来られる」
彼は言うのだった。茶色の髪を茸に似た形に切っている彫の深い顔の若者だ。その名をイオラトステスという。トロイアの貧しい貴族の息子である。トロイアにおいては軍の士官を務めている。
彼はその日酒場で飲みながらカサンドラがそのことを予言しているのを聞いた。そうしてそのことを信じずにせせら笑う同僚達に対して告げたのである。
「あの方が」
「あの方!?」
「あの方とは誰なんだ?」
「パリス様だ」
その名も言うのだった。水で割った葡萄酒を飲みながら。
「あの方が戻って来られる。このトロイアにな」
「パリス様って誰だ!?」
「さあ」
「聞いたこともないな
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