禁断の果実編
第88話 白い武者とラプンツェル
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ユグドラシル・タワーを降りている途中で、碧沙が言った。
「服にヘルヘイムの果実のにおいがついててキモチワルイ。着替えたい」
この事態でそんなワガママを言う妹ではない。おそらく貴虎のスーツ――長い“森”の探索であちこち汚れてほつれた――を気にしてくれたのだろう。
貴虎は会社で夜を明かすことも珍しくなかったため、替えのスーツはオフィスに常備してある。よって兄妹はタワー脱出前に貴虎のオフィスに寄った。
オフィスはがらんとしていた。当然だ。部屋の主の貴虎が不在だったのだから。
「あれ? これ、わたしの服だわ」
碧沙がソファー近くの紙袋に駆け寄った。おそらく兄妹が行方不明になった間に、社員が置き場所に困ってこのオフィスに持って来たのだろう。
「この際だからお前も着替えておくといい。果実のにおいの付いた服で気持ち悪いだろう?」
ロッカーから着替えを出そうとして、貴虎はふと気づいた。スーツが一着なくなっていた。
「兄さん?」
気にはなるが、今はそんな些末事で騒げる事態ではない。何でもないと碧沙に告げ、貴虎は適当なスーツを一着出した。
――物陰で着替えて出てきた貴虎に、同じく黒いフォーマルワンピースに着替えた妹が、とたとたと歩み寄って来た。
「これからどうするの?」
「光実がいる病院へ向かう。まだ本調子でないかもしれないが、じっと休ませてやるのも今は難しい。その上で葛葉紘汰に合流する。碧沙、葛葉が拠点にしている場所は覚えているか?」
「ビートライダーズの? だったらチーム鎧武のガレージじゃないかしら。道もおぼえてる」
「よし」
貴虎は量産型ドライバーを出して腹に装着し、バックルにメロンの錠前をセットした。
「変身」
《 ソイヤッ メロンアームズ 天・下・御・免 》
斬月に変身した貴虎は、盾を嵌めたほうの片腕で碧沙を抱き上げた。
『ここからは強行軍だ。きついだろうが許してくれ』
「守ってくれるのに、ゆるすもなにもないわ」
その言葉で覚悟は決まった。
斬月は勢いよくオフィスのドアを開け、ヘルヘイムの植物に覆い尽くされた廊下に飛び出した。
貴虎自身が告げたように、脱出は、襲ってくるヘルヘイムの植物の蔓を斬り払いながらの強行軍だった。
そんな中、抱きかかえていた碧沙が、ふいに口を開いた。
「光兄さんって、どんなコドモだったの?」
『どうしたんだ、急に』
「ん。その、わたしにしてるみたいに、光兄さんのことも守ってあげたのかなって。そう思ったら、光兄さんのコドモのころのこと、気になっちゃって……ごめんなさい。こんな時にするシツモンじゃなかった」
しゅん。碧沙は分かりやすく落ち込んだ
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