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籠の鳥の冒険
籠の鳥の冒険
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 絶句するミッタマイヤーの横で、顎に指を当てつつロイエンタールは思った。

   状況的に、自殺としか思えない。だが、何故にそう判断されなかったのか?

 その答は、親友が相手に確認した。
「彼女が、何時頃まで生きていたのか、確認は取れているんですか?」
「午後三時過ぎ、所謂《教育係》達が押し掛けて来た時に、屋敷のメイドがB嬢に彼女達が来た事を伝えて、『逢いたくない』と応えたのを聞いています」
 そして、礼儀として三〇分間彼女の気が変わるのを待った女達は、自分達を待たせるB嬢の事を『礼儀知らず』と罵りながらメイドの制止を(文字通り)薙ぎ払って、彼女の部屋に行き惨状を目の当たりにしたのである。
 状況的に、メイドが偽証している可能性を感じたものの、その時はメイド数人と彼女の(親族側が用意した)家庭教師も聞いていた為、それは無いと男爵は言った。
 そして、彼女がホテル・ハイデクラオトのティーサロンをひいきにしていた、読書と小鳥の好きな少女であった事を話すと、エドマンド・フォン・オッペンハイム男爵は帰って行った。


 翌日、ミッターマイヤーの執務室に顔を出したロイエンタールは、案の定考え込んでいる親友の姿を見い出し隠す事無く溜息を吐いた。
 ミッターマイヤーの方はと言うと、親友の懸念通り書類片手に、全く仕事と関係の無い事を考えていた。と言っても、考えていたのは事件の事と言うよりは。
「ミッターマイヤー、まだ考えているのか?」
「ん? ああロイエンタール、いや違うんだ。少し引っ掛かる事があってな」
「引っ掛かる事?」
 ミッターマイヤーは元々好き勝手跳ねがちの、蜂蜜色の金髪に指を突っ込むと苛立ちを隠さず呻いた。
「何か、凄く引っ掛かってるんだ。凄く事態に関わる事が、ここまで出掛けてるんだが……」
 その時である。
 がこんっと、扉の向こうから派手な音がして、その後控えめにノックされた。
 入室を許可すると、数冊のファイルを抱えたジンツァー中将が入って来た。
「閣下、書類にサインをお願いします」
「なにやら派手な音がしたが、虫でもいたのか?」
 ロイエンタールの揶揄に、ジンツァーは冷静にこう言った。
「はい、アメフラシの様なゴキブリが扉に張り付いておりましたので、一発叩き落としましたが」
 その言葉と、一緒に持ち込まれた『K.E.バイエルライン』のサインの入った書類に、大体を悟ってロイエンタールが軽く眉を上げたその横で、急にミッターマイヤーが立ち上がった。
「思い出した! カナリヤだ!」
「ミッターマイヤー?」
「閣下?」
 ミッターマイヤーの方は、入って来た部下――そしてかつての同級生の方を見て、勢い込んでこう続けた。
「ジンツァー憶えているか、昔士官学校時代に、カナリヤを拾った事あっただろう?」

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