籠の鳥の冒険
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んな事を言って、もう何かしらの協力をするつもりでいる癖に。
ロイエンタールはそう苦りつつ、男爵と話すべく歩き出したミッターマイヤーの背を追った。
エドマンド・フォン・オッペンハイムの親友、仮称A伯爵には一二年前一六歳の娘がいた。
仮称B嬢は要するに美少女で、当時皇宮に召される事になっていたと言う。……そう、ちょうどローエングラム公の姉、アンネローゼが召し上げられる少し前の話である。
父親としては、出来うる事なら娘を要するに皇帝の寵姫として皇宮に上げるなど、これっぽっちもしたくはなかった。
しかし、A伯爵には、申し出を断れない事情があった。
「事情ですか?」
「ええ、まあ辺境貴族の私としては、馬鹿馬鹿しい話なのですが」
コーヒーを啜って、男爵曰く。
A伯爵の家系と言うのが、あのブラウンシュバイクとリッテンハイム両家の両方と関わる為に、『帝家の血が入っていない、手頃な娘』として両方から差し出す事を強要されたのである。
「ありがちな話だ」
そう言った友人の足を一発踏んでから、それでとミッターマイヤーは話を促す。
何しろ、アンネローゼ以前のーーそして某夫人以外のーー寵姫など聞いた事が無かったからだ。
結論から言えば、B嬢は皇宮に上がらなかった。
その一週間前に、謎の死を遂げたからである。
事件当日は、初夏の快晴の日だった。
皇宮に向かう日が近付き、ナーバスになっていたB嬢はその日も自室に籠っていた。
そして、その日の午後三時を幾らか過ぎた頃、ブラウンシュバイク、リッテンハイム両家から教育係と称して女たちが伯爵家にやって来た。
要するに、寵姫としての心得とやらを長々しゃべり、伯爵家で夕食を食べて帰る気満々の小母様達は、しかしメイドに開けさせた室内の惨状に金切り声を上げて逃げ出した。
B嬢は、自室のベッドの上で首を切り裂かれ、己の血の海の真ん中で死んでいたのである。
「警察の調べでは、亡くなったのは午後三時前後。床に落ちていた剃刀によって、頚部大動脈を切断した事による失血死でした。ただ、問題は一体どうやって彼女を殺害した犯人はあの部屋に入ったか、そして出て行ったかと言う事です」
「と、おっしゃいますと?」
オッペンハイム男爵は、徐ろに一枚の2Dフォトを差し出した。そこに写っていたのは、いかにも頑丈な鉄格子の嵌まった窓であった。
レースのカーテンや繊細な細工の鳥篭と言った女の子らしい装飾を、その鉄格子が台無しにしているそこは件のB嬢の部屋であった。
「この通り、ご親族の皆さんは彼女の身を案じて、こんなに立派な鉄格子を嵌め殺しにさせましたからな。まあ、流石に電流までは流さなかったようですが、いかに細身の人間でも、こんな一五センチ程の隙間を抜けられるとは思えませんからな」
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