暁 〜小説投稿サイト〜
相棒は妹
伊月「俺は――」
[4/7]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
 緊張と沈黙が極限に達した教室内。担任はおらず、中で掃除していた生徒達は何も言わずに俺達に注目している。だが、誰も小言や嫌味を挟んでくる事は無かった。
 そして、何十秒もの空白の末、志乃はゆっくりと言葉を紡ぐ。その言葉はまさに、志乃自身の本心から来るものだと、俺は直感で感じた。

 「……私は、私を優先してほしかった……!」

 その言葉を聞いた瞬間、俺は志乃の手を掴んで教室を飛び出した。バッグなんて持ってきていない。俺が手に握りしめているのは、志乃だけだ。

 時間がゆっくり流れているように感じる。動いているのが俺と志乃だけのように感じる。この世界に、俺と志乃以外存在しないようにすら思えてくる。そんな曖昧な感覚を持って、俺は志乃の手を引いて廊下を疾走する。

 志乃はあまり運動が得意じゃない。というか出来ない。その事を知っている俺は階段を上り、閉鎖されている屋上へと続く階段の半分まで登って、足を止めた。

 手の先を見ると、志乃が肩で息をして俺を見上げていた。意図が掴めぬといった感じだ。

 俺はそんな志乃を見て、手を離し、静かに頭を下げる。

 まだ、ちゃんと謝れていない。さっきも八つ当たりみたいなバカな事をしてしまった。志乃には最初から迷惑を掛けているのに、本当に俺はバカな人間だ。

 「お前の、お前の気持ち、まだ分かってなかった」

 そして、更に深く頭を下げる。武道で習った礼では四五度と教わったが、今の俺は九〇度に達している事だろう。少し顔を上げれば志乃の顔を触れそうな位置だ。最後に、志乃に告げる。

 「……ごめん」

 「……」

 志乃は何も言わず、俺を見ている。だが、やがて小さな声で呟いた。

 「私もムキになってた。ごめん」

 その言葉を聞いて、俺は顔を上げる。そこには照れくさそうに顔を背ける志乃がいた。

 「兄貴がビッチと仲良くしてるように見えて仕方なかった。この間ズタバでお茶してたの見てホントに怒った。でも、ちょっと頑固になりすぎてた。ごめん」

 そういう志乃の顔は不安げで、チラチラと視線を向けてくる。何かを怖がっているように思え、頑張って優しい笑みを作ろうとしたが、引きつってしまう。

 「いや、それも俺が悪いんだ。お前だって人間なんだし、感情に動かされておかしくねぇよ」

 そう言うと、志乃はホッとしたように息を吐き、一つの提案を出した。

 「じゃあ、今回も言う事聞いてもらおうかな」

 「またかよ。まぁ、出来る範囲で頼むぞ」

 まるで女王と下僕のような関係だが、志乃はそれに気を留めずに言った。

 「『俺はちっぱいが大好きだ』……ってクラスで言ってきて」

 「は?」

 ……そのネタ、本気で言ってんのかこいつ。俺を終わら
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ