伊月「俺は――」
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緊張と沈黙が極限に達した教室内。担任はおらず、中で掃除していた生徒達は何も言わずに俺達に注目している。だが、誰も小言や嫌味を挟んでくる事は無かった。
そして、何十秒もの空白の末、志乃はゆっくりと言葉を紡ぐ。その言葉はまさに、志乃自身の本心から来るものだと、俺は直感で感じた。
「……私は、私を優先してほしかった……!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は志乃の手を掴んで教室を飛び出した。バッグなんて持ってきていない。俺が手に握りしめているのは、志乃だけだ。
時間がゆっくり流れているように感じる。動いているのが俺と志乃だけのように感じる。この世界に、俺と志乃以外存在しないようにすら思えてくる。そんな曖昧な感覚を持って、俺は志乃の手を引いて廊下を疾走する。
志乃はあまり運動が得意じゃない。というか出来ない。その事を知っている俺は階段を上り、閉鎖されている屋上へと続く階段の半分まで登って、足を止めた。
手の先を見ると、志乃が肩で息をして俺を見上げていた。意図が掴めぬといった感じだ。
俺はそんな志乃を見て、手を離し、静かに頭を下げる。
まだ、ちゃんと謝れていない。さっきも八つ当たりみたいなバカな事をしてしまった。志乃には最初から迷惑を掛けているのに、本当に俺はバカな人間だ。
「お前の、お前の気持ち、まだ分かってなかった」
そして、更に深く頭を下げる。武道で習った礼では四五度と教わったが、今の俺は九〇度に達している事だろう。少し顔を上げれば志乃の顔を触れそうな位置だ。最後に、志乃に告げる。
「……ごめん」
「……」
志乃は何も言わず、俺を見ている。だが、やがて小さな声で呟いた。
「私もムキになってた。ごめん」
その言葉を聞いて、俺は顔を上げる。そこには照れくさそうに顔を背ける志乃がいた。
「兄貴がビッチと仲良くしてるように見えて仕方なかった。この間ズタバでお茶してたの見てホントに怒った。でも、ちょっと頑固になりすぎてた。ごめん」
そういう志乃の顔は不安げで、チラチラと視線を向けてくる。何かを怖がっているように思え、頑張って優しい笑みを作ろうとしたが、引きつってしまう。
「いや、それも俺が悪いんだ。お前だって人間なんだし、感情に動かされておかしくねぇよ」
そう言うと、志乃はホッとしたように息を吐き、一つの提案を出した。
「じゃあ、今回も言う事聞いてもらおうかな」
「またかよ。まぁ、出来る範囲で頼むぞ」
まるで女王と下僕のような関係だが、志乃はそれに気を留めずに言った。
「『俺はちっぱいが大好きだ』……ってクラスで言ってきて」
「は?」
……そのネタ、本気で言ってんのかこいつ。俺を終わら
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