伊月「俺は――」
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がてHRが終了し、帰りの挨拶と共にクラスに様々な空気が入り混じる。三者三様の動きを見せるクラスの中で、掃除担当では無い俺は、思い切って後ろの席の志乃に声を掛けてみる事にした。なんか好きな人にコクるような感じだ。当然、妹に告白するわけでは無いが。
「志乃、一緒に帰ろうぜ」
ちなみに、朝は一緒に登校した。だが、互いに声を掛ける事もせず、これまでで初の無言登校が形となって浮き上がってしまった。クラスの奴には特に気にされなかったが、恐らく本山は勘付いていただろう。
志乃は自分のバッグに教材を詰めているだけで、俺の言葉に答えようとしない。
「志乃?」
もう一度聞いてみるものの、志乃は一切目を合わせず、帰りの準備を進めるだけだ。
そんな志乃の態度に、俺が発した言葉は――
「ざけんな……」
気付いた時には遅かった。俺の口は言う事を利かずに自由気ままに動き出す。
「ざっけんな!確かに、全部俺が悪いよ!でも、それにしちゃ長すぎるだろ!いつまでもそんなにカリカリ怒ってんだよ!」
もしかしたら、自分の望んだ生活が出来ない事に対する八つ当たりなのかもしれなかった。
「そんなんじゃ、俺みたいにいつまで経っても前に進めねぇ!あれからもう何日経った?六日ぐらいだぞ!それとも、俺が土下座してお前の言う事を何でも聞けばやっと許してくれるのか?」
もしかしたら、自分がどれだけやっても許されない事に対する苛立ちなのかもしれなかった。
だからこそ、言い終えてから気付く。
俺はどこまでも自分勝手で、どこまでも成長しない、我儘なガキなのだと。
大人になれば辛い事や苦しい事はもっと増える。しかし、今の俺はそんな厳しい現実には立ち向かえないだろう。相手のせいにして、被害者面して文句だけ言うに違いない。
周りは皆、俺と志乃を見て固まっていた。だが、囃し立てるものはおらず、俺達の様子を見守るだけだった。
沈黙。
それだけが支配する極限の空間。そんな中を、妹が言葉を紡いで切り裂いた。
「五日間だよ」
それが、最初の台詞だった。志乃は更に言葉を吐き出す。
「……私だって、このままじゃダメだって思ってた。いつまでも進歩しないって分かってた。でも許せなかった」
「……」
「私はその場を見てなかったけど、確かに兄貴は究極の決断を迫られて、仕方なく女狐と出かけたのかもしれない」
五月三日の話をしているのだろう。女狐とは、恐らく本山の事だ。
「でも、やっぱり私は……」
そう言って、志乃は顔を俯けた。おさげの髪が揺れ、前髪で目元が見えなくなる。口をわなわなと震わせ、何か言おうとしている。それでも口にはしようとしない。
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