第五章
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て述べる。
「人それぞれだし家だしね」
「別に変に思うことはないかしら」
「そう思うよ」
いつもの穏やかな様子で述べた。その言い方も内容も尚志らしいものになっていた。
「僕はね」
「有り難う」
若菜は尚志のその言葉を聞いて少し頬を緩ませてきた。
「そう言って貰えるとね。嬉しいわ」
「そうなんだ」
「ええ。何でもかんでもお父さんが第一だからね。結構大変で」
これもまたかなり驚くべきものであった。本当に尚志の常識とは全く違っていて別世界にいるような気分になってきていた。
「困ってるの?」
「困ってるって言ってもどうしようもないし」
余計に辛い言葉であった。
「それでも家族には暴力とかは振るわないのよ」
当然と言えば当然であった。家族に暴力を振るうのは人間としてどうかだ。叱るのはいいが暴力を振るうのは頷くことができない。
「それはね」
「それはいいね」
「ええ。特に私末っ子だから」
はじめて知ることがここで出て来た。
「余計に」
「いいお父さんなの?」
「そうね。無茶なことは言わないし」
とりあえずは人間としてはまともであることもわかった。それを聞いてほっとした。
「いい人なんじゃないの?」
「けれどね」
しかし若菜はここで困った顔を見せてきた。
「決まりとかは凄く厳しいの」
「決まり?」
「家訓なのよ」
またしても今時珍しい言葉が出て来た。尚志はその単語を聞いて目を丸くさせたのであった。
「家訓って」
「あれっ、ないの?」
若菜はこの言葉を聞いて自分も目を丸くさせた。二人共目を丸くさせたがそれぞれ違う理由によるものであった。けれど表情は同じ感じになっていた。
「ないよ」
尚志は苦笑いと共に述べた。
「そういうのはね」
「そうなんだ。ないの」
「ううん、多分今ある家ってかなり少ないよ」
尚志は考えながら若菜に述べる。
「ある家って実際にはじめて聞いたし」
「それって少し驚いたわ」
若菜は目を丸くさせたままだった。本当に意外といった感じだった。
尚志も同じだった。彼も驚いていたのだった。
「とにかくそれがあるから。私かなり」
「凄いね、何か本当にあるなんて思えないよ」
「私も驚いているわ。他の人の家ってないのね」
「とりあえず僕の家はね」
「ないのね。それでね」
若菜はさらに言葉を続ける。じっと尚志を見ている。見ているその姿が尚志の目に映っている。尚志もまた若菜の目に自分の姿を見ていた。
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