暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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〜銃声と硝煙の輪舞〜
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室から出てこない。
紺野木綿季などは、アパートに程近い位置に立地する紺野家より多くの時間を過ごしているんじゃないか、と思えるほどの頻度で遊びに来ているが、彼女もSAO
生還者
(
サバイバー
)
に向けて建築された
学校
(
キャンパス
)
に通っているので、来れるはずもない。
そんな事を思いながらガランガランの広い食堂内を見回していた小日向蓮の目の前に、焼きたてのトーストがするりと差し出された。中心にぽてんと乗っけられたマーガリンが漂う事によって発生する香りが、鼻腔と胃を激しくせっついてくる。
匂いだけで唾液が、滝のように湧き出してくる。
最近蓮の食が細いのをるり子さんは分かっているため、出されたのはトースト一枚とカップ一杯のミルクだけだった。
マーガリンが充分溶けきるのを待ち、トーストにかじりつく。サクサクとした食感と、ふわふわとした食感が絶妙なハーモニーを奏でている。
何というか、今日も今日とて平和であった。
しかし、小日向蓮は知っているはずであった。
否、知っていた。
平和とは、争いと争い、血と血、戦争と戦争、絶望と絶望の間に生じた、一時の休息のようなものでしかない、と。
一年。
一年という時間は蓮の、レンとしての、《冥王》としての本質を小さなものとしてしまっていた。
そう、かつて少年があれほどまで嫌い、憎んだ《灰色の現実世界》が、彼自身を侵食しようとしていた。
その事に少年の本能は気が付いていたが、理性は気付いていない。いや、気付く事さえ恐れている。誰しも、自らの牙がもがれる事を恐れるのは、ある種当然の精神防衛本能である。
しかし、少年の本質は、存在は薄れていく。
あの魔城に行く前の自分に、透明な存在に。
ゆっくりと。
じわじわと。
ずるずると。
引っ張られ、引きずり込まれ、染まっていく。
その速度は決して速いものではなかったが、確実に少年は『戻っていく』。
だが、《世界》は彼を許さない。
許さなくて、赦さない。
平和とは、刹那の休息なのだから。
休んだ分は、返さねばならない。
少年にとって、小日向蓮にとって、《冥王》にとって、一年という休暇は終わった。
戦いが始まる。
否、戦いとも呼べない《コロシアイ》が。
さぁ、そろそろ起き上がろう。
火蓋は切られた。
号砲は鳴った。
幕は上がった。
先は見えない闇の中。
血で血を洗う、聖戦を始めよう。
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