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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十一話 会議は進まず、されど謀略は踊る
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 苦笑して彼の好みど真ん中であるアスローンモルトの三〇年物を棚から取り出しながら、どこか面白そうに白髪の老人は語りだした。
「――水軍の内外情勢調査会は我々と協調関係にあるのは君も知っているだろう?
陸軍の特設高等憲兵隊も――あの男は我々と公然と敵対するような真似はせんさ。それにだな――」
 そこで言葉を切り、老魔導士は今度こそ笑い出した。
「君、君、私はね。天龍の観戦武官などという珍妙な御仁と友誼を通じている人間は、近衛に居る君の友人しか知らないのだよ」



「――畜生、奴の巫山戯た友人選びの所為だ。」
 その後、特務局長は彼を勅任一等特務魔導官に昇進させた。
だが、羽鳥守人の職務は通常の一等魔導官と比較しても、重要性は高く、量も数倍以上となっていた。特務局長の古巣である特殊導術局の監視対象(周辺諸国、取り分け〈帝国〉の策源地である旧北領)の観測情報を把握し、彼独自の伝手を通して流すこと。
 そして新城直衛の周辺(つまり、駒城の動き)を重点的に探る事。
 ――そして、特務局内国第三部の勅任一等特務魔導官として将家に対する諜報活動の現場責任者として指揮を執る事。
 諜報機関の人的資源は育成に時間がかかる、その為、有事となると人手不足は深刻な域に到達しているのである。

「ただでさえ面倒なのに、あの狸一族め!余計に面倒事を巻き起こすつもりか?」
 羽鳥の零す愚痴は根拠のないものではない。
 当主の馬堂豊長は憲兵という兵科の黎明期に築いた伝手と豊守の伝手により、内務省をはじめとした官界そして官界に増えた衆民官僚を通して政財界に密接に関わっており、特に投資に成功した事で財界との関係を強めている。
馬堂豊守はそれを更に広げながら弓月と結び、官界に手を伸ばしで官房総務課内でも権勢を強めている。
 馬堂豊久は特務偵喋憲兵隊の手綱を握っている陸軍軍監本部情報課防諜室に根深く食い込んでいる上にあの(・・)新城直衛の旧友である。
 そうした面々と結びつきを深めている馬堂家は最早五将家に次ぐ程の重要度を持つまでに至っているのだ。

「――さてさて、新城の面倒は相も変わらず根深いものになりそうだ」
執政代に衆民議員連と馬堂家当主、そこで交わされている札の中身を嗅ぎとった羽鳥は――静かに苦笑した。


同日 午後第六刻 皇都 桜契社 第二貴賓室


さて、幾度も登場しているが桜契社は、家名を問わず、あらゆる将校が訪れる事が出来る。
また、当然ながら五将家の閥に属するものが訪れる事も多く、時には五将家の重臣・そして時には直系の者達の間で信じられないような情報交換が行われることも珍しくない。
そしてそうした時にはそれぞれの子飼いの給仕の手によって『茶会』の為に貴賓室とその両隣が使用中となるのが通例だった。
 そして
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