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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十一話 会議は進まず、されど謀略は踊る
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 ――彼が目立てば豊久を皇都に戻す事もできるだろう戦時の間、豊久を軍監本部か兵部省に栄転させて、若殿の補佐に回させてもらう事ができれば色々と楽になる。
弓月の衆民官僚への影響力と馬堂の将家、財界への力。この二つを統合し、芳峰子爵家の工業力を得ればこの数年で馬堂は飛躍するだろう、それこそ、豊久が馬堂家を背負う時には弱まる三将家の背が間近に見える程に・・・・とそこで、あまりに楽観的な思考に苦笑が浮かんだ。
 ――何もかもが楽に行く筈などあるわけがなく、そもそもが御国の行く末が危ういと言うのによくぞここまでお花畑を育てたものだ――どうやら儂も焼きが回ったか。

「――当面、避難民への支援は衆民院の賛成を経て、緊急予算措置を行います。
後備の動員は些か難しいでしょうが」

「其方は、馬堂も支援を行います。廰堂に出れば大殿も、これは国防の急務です」
 ――実務に関する約定を済ませ、酒肴を楽しみながら、思考の程度を下げる。

 ――却説、我々の跡継ぎは無事に戻ってくるだろうか?前線に居させるには十分すぎる程、武功を立てただろうし、そろそろ一時的にでも皇都に戻させるよう大殿にかけあってみるか、面倒ばかり増えて儲けた端から面倒を処理する為に家産が流れるようでは話にならん。少しは役得というものを積極的に得ても良いだろう。



同日 同刻 料亭周辺
勅任一等特務魔導官 羽鳥守人

 羽鳥守人は鬱々とした気分を吐き出すように溜息をついた。つい半月程前に一等魔導官に昇進した事を知る周囲の人間は不可解そうな視線を彼に向けるが、それを気にすることもない。
 昇進に至った経緯を知れば羽鳥に向けられているその視線は生暖かいモノになるかもしれないが、それをする意味もなく羽鳥は再び溜息をつき、議員達の集う料亭をうんざりと見つめ、苦い思いと共にそれを思い出した。



「――君は、職務上知り得た情報を外部――軍に流したな?」
 特務局長――羽鳥にとっては雲の上に居る男が無感情に尋ねる。
 彼は皇室魔導院第四位の席次にあり、魔導院の古株である事を示すように、本物の導術士の証である銀盤が額に埋め込まれている。

「何の――事でしょうか?」

「龍兵の事だ、将家連中によって我々が要路に流した報告を握りつぶされた事は分っている」
 張りつめた空気にも羽鳥は態度を変えない、相手がどう出るかを見極めねばならないからだ。
「問題はその後だ、我々の要路とは別の伝手で情報が流れ、軍の一部が動き出した」
 新城に守原の動きやら〈帝国〉龍兵の情報を流した羽鳥はそれを柳に風と受け流す。
「――軍には軍の情報機関があります。先ずは彼らを疑うべきでは?」

「惚けるな、君もここに連れ込まれた時点で既に調べがついているのは分っているだろう」

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