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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十一話 会議は進まず、されど謀略は踊る
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やれ、儂と違って馬堂は三代続いて当たりを引いているわけだ!
どうしてなかなかいるものだな……動き次第によっては、こちらに取り込むことを考えるべきかもしれん」
 
「護州のように、ですか? それもいいですがな、父上」
 さすがにそこまでの舵きりは性急ではないか、と言いたげな信置に信英は頷きかけた。
「案ずるな、信置。今はまだ動くときではない、虎城にすべてが揃った時が始まりだ。
だが、当面、皇都は荒れるぞ。今はただ、誰がどう動くかを見定めるのだ」



同日 午前第十刻 皇都 内務省庁舎内第一会議室
内務勅任参事官 弓月由房


 初夏の蒸した会議室に鬱々とした表情をした初老の男達が集まっている。内務省――警察行政・天領の運営・開発・民政に関する将家間の権益の調整と幅広く権限を与えられた巨大な官庁の高級官僚達である。

「――龍口湾で我らの軍は敗けたそうだ。この戦は長引くであろうな」
 内務大臣である宮蔵背州侯爵が張りのない声で会議の口火を切った。宮野木家の分家筋の文官であり、一時は他家を蔑ろにし、専横を振るっていたがそれも過去の話である。
 背州公の宮野木和麿が表舞台から追い出されてからはかつての威勢はなくなり、口さがない者には無力化されたからこそ大臣の椅子に座る事ができたのだとまで言われている――おそらく的を外してはいないだろうと口に出さない者達も内心考えているようであるが。
 かといって駒州閥の次官にも好き勝手できる地盤はない。また専横は孤立に?がると駒城本家からも積極的な権益拡大を避けてきたこともあり、この十年程、内務省に明確な主導権を持つ者は失われていた。
 そしてその間隙を縫って躍進に成功したのが故州伯と彼らが育てた衆民出身の中堅官僚達であった。彼らは将家間の意見を調整する役目を果たすのに、弓月伯爵家――五百年も昔、それこそ諸将時代より古く、故府に都が置かれた皇主と貴族官僚達で構成された部省制の時代から続く名門の権威が万民輔弼宣旨書以後、急速に数を増やした――特に警察機構を司る警保局と自治化が急速に進む天領を管理する州政局に――衆民官僚を担ぎ手に選んだこと、そして、その神輿に座る男が巧みに彼らを操縦する能力を持っていたことで(内務省内に限定されるが)一大勢力へと躍進したのであった。そして現在では局長級の合議を勅任参事官が調整し、大臣と次官が裁定を下す方式へと変わりつつあった。

「敵も総力を挙げて追撃する余力は持っていないようですが、増援の到着も近いそうです。
遠距離探索を行っている魔導院からは一個軍団規模が北領南部に再集結しているとの報が出ています。」
 勅任参事官の弓月故州伯が現状を説明する。
「――ですが、すでに我が国の軍は撤退を行なっており、東州・及び虎城山地にて再集結を計画しています。龍州は
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