第十章
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第十章
「嘘ではない」
「はい」
「そしてだ」
彼はさらに問うてきた。問い掛けは簡単には終わらない。
「君は私のことを聞いているな」
「はい」
その言葉に答えるのが一番怖かった。彼は後でよくこう言った。
「私が娘と交際する者に何を求めるのか」
「勿論です」
必死に気を保ちながら答えた。
「武道をしておられるのですね」
「そうだ」
矢吹は全てを威圧する声で答えるのだった。
「そして」
「矢吹さんと付き合う場合は、ですね」
「わかっているのか。それではいいな」
「そのつもりです。それでは」
「うむ。では」
すくっと立ち上がった。傲然とした感じで彼を見下ろしている。その威圧感に気圧されそうになるが彼はそれでも何とか矢吹を見上げてそこに立っていたのであった。
「来るがいい」
「道場にですね」
「そうだ、来るがいい」
彼はその場を去った。重厚な足取りで歩いていく。尚志はそれを見送った後で若菜に顔を向けて言ってきた。
「じゃあ」
「ええ。それでいいのね」
「何度でも言うよ。そう決めたから」
彼の言葉も変わらない。そこにある強い決意もだ。
「着替えないといけないね」
「服は用意してあるから」
「それで何なの?空手?柔道?」
「どれを着ていってもいいわよ」
若菜は答える。答えながらもじっと尚志を見ている。
「お父さんは多分合気道の服を着てるから」
「合気道なの」
「こうした時はいつもなの」
そう彼に教える。そこにあるのは何なのかと思った。
「どういうわけかわからないけれど」
「わかったよ。じゃあ僕も」
何かがあると思った。彼はそれを聞いて着る服を見つけたのであった。
「それを着るよ」
「うん。それじゃあ」
若菜はその言葉を聞いてから立ち上がった。そうして尚志に顔を向けて言うのであった。
「来て」
「服がある部屋だね」
「そうよ」
こくりと頷いて答える。
「そこに案内するから」
こうして彼は服がある部屋に案内されそこに入った。そこは畳と襖の何もない部屋であった。どうやら着替え用の部屋だった。入ると部屋の脇に多くの服があった。着替え用の部屋であるらしい。
その中の一つを手に取った。それが合気道の服だった。
自分が着ている服を脱いでまずはシャツとトランクスだけになる。そこから着ようと思ったがふと思い出したことがあった。
「あっ、そうか」
武道の服は下着を着けない。それを思い出して下着も脱いだ。そうして服を着た。和風の服の着方はあまりよくはわからなかったがそれでも着たのであった。
服を着るとそこで若菜の声が部屋の外から聞こえてきた。
「もう着た?」
「うん」
そう彼に問うてきた。
「今着たばかりだよ」
「そう、じゃあ行きましょ
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