惚れたが負け
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や行動は最初から最後までそうなのだが。
「あの、それで」
「はい」
「コーヒーでも。飲まない」
「コーヒー」
「寒いから。バス停のところに自動販売機もあるし」
よくうちの学校の生徒が使う自動販売機だ。俺もよく使う。けれどこいつが使おうなんて言い出したのははじめてだった。これに少し驚いた。
「どうかな」
「コーヒーねえ」
「嫌だったらいいけれど」
「別にいいよ」
俺はこう言い返してやった。
「飲みたいんだろ?じゃあ飲めばいいじゃねえか」
「桶谷君も飲むの?」
「何だ、一人で飲むのかよ」
「それは」
また俯いちまった。
「あの」
「わかったよ。一緒に飲もうぜ」
何かこいつのペースにはまっちまっているがこう言ってやった。
「それじゃあ」
急に嬉しそうな顔になりやがった。そしてそそくさとバス停に向かう。
「何がいい?」
「ボス」
俺は一言で答えた。そして自分の財布から金を取り出してコインを入れた。二人分だ。
ボタンを押す。二回押した。
「あっ」
「しまった」
俺はここでわざとこう言った。
「二回押しちまったよ」
「どうするの?」
「どうするのって。御前にやるよ」
冷たい声でこう言ってやった。
「えっ、けど私」
「まだ買ってないんだろ?じゃあ丁度いいじゃねえか」
「けど」
「たまたまだからな。自分の金使わなくていいじゃねえかよ」
「そういう問題じゃないし」
「女ってのはなあ、男が一緒にいたら金使わなくていいんだよ」
「そうなの」
そんな話はかなり勝手な女しか言わないだろうが俺はあえてこう言ってやった。そうでないとまだウダウダと言いそうだからだ。全く仕方のねえ奴だ。
「けど私お金持ってるし」
「金なら俺だって持ってるよ。だからいいんだよ」
「けど」
「まだけどかよ。だかたいいって言っただろ」
またイライラしてきた。
「やるんだからよ。貰えるものは貰っておけよ」
「それじゃあ」
「ほら、気をつけろよ」
そう言って手渡す。平田はミトンで覆われた手でそれを受け取った。
そのミトンの片方を外してから栓に指をかける。そして開けて飲みはじめた。
「どうだ」
「何か甘くない」
「ああ、済まねえ」
俺は自動販売機を見てはじめて気付いた。今買ったのはブラックの無糖だ。甘くないのも当然だった。
「それ何も入ってないやつだ。悪いことしたな」
俺はこれでも平気だが。家じゃいつもコーヒーには砂糖もクリームも入れない。だがこれは人によって好き嫌いもあるだろう。それに気付かなかった俺のミスだった。
「換えるか?それじゃあ」
「あっ、それはい
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