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良縁
第九章
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テンも白く奇麗にされている。艦長はその部屋の木の机に座っていた。
「それで副長」
「はい」
 二人がまずやり取りをはじめた。
「何があった?艦内のことか」
 甲板士官でもある伊藤を見つつ副長に問う。
「何かあったのか」
「艦内のことではありません」
 副長はきびきびとした動作での敬礼と共に艦長に答えた。
「そうではないのです」
「違うのか」
「はい。あのことです」
「あのこと!?」
 あのことと聞いただけで艦長の眉がぴくり、と動いた。
「あのことか」
「そうです。井伏様の件ですが」
「わかった」
 艦長は伊藤を見つつ副長の言葉に頷いていた。
「そういうことか」
「その通りです。如何しましょうか」
「わしから話そう」
 伊藤を見たまままた副長の言葉に応えていた。
「それでいいか」
「ではそれで御願いします」
「うむ。しかしだ」
 二人だけでの深刻な会話が続いていた。
「君もいてくれ。いいな」
「わかりました」
「それではだ」
 艦長は副長とここまで話したうえで伊藤に顔を向けてきた。そのうえで彼に対しても言うのだった。
「砲術士」
「はい」
「まずは座って話をするか」
「座ってですか」
「そうだ。この話はだ」
 語るその口が重厚なものになっていた。
「かなり厄介な話だからな」
「それでもいいか」
 副長も横から彼に言ってきた。
「それでもいいというのならいいが」
「勿論です」
 彼は迷わなかった。
「是非共御願いします」
「わかった。それではだ」
「まずは座ろう」
 副長と艦長がまたそれぞれ言ってきたのだった。
「それからだ。話は」
「それでいいな」
「わかりました」
 こうして伊藤は二人から話を聞くことになった。そしてその話は。彼にとっては驚くべきことであった。
「お妾さん、だったのですか」
「そうだ」
 艦長が伊藤の向かい側にいた。今伊藤と二人は艦長室のソファーのところに向かい合って座っている。伊藤が一人で、艦長と副長は並んでである。

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