第八章
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第八章
「そして普段の日家に帰る時間は」
「この時間帯ですか」
「時間はいつも決まっています」
こうも言ってきた。
「この時間帯です」
「そうですか。それでは」
「いつもはお忙しいですよね」
「残念ですが」
ついつい苦笑いになってしまった。こればかりはどうしようもなかった。
「ですから正直時間に関しては」
「それでも。お時間があれば」
「ええ」
何時の間にか祥子のペースになっていた。どうやらこれで意外と強い少女のようである。伊藤は心の中でそう分析もしていた。
「御一緒させて下さい」
「わかりました」
こうして二人のささやかな交流がはじまった。最初は誰にも知られなかった。だがある日。艦橋にいた彼のところに副長が来た。そうして笑いながら彼に声をかけてきたのだった。
「伊藤少尉」
「あっ、副長」
彼の姿を認めて慌てて敬礼する。今まで下士官達にあれこれと指示を出していたのだ。副長はそれに合わせて返礼をしてきた。それから彼に言ってきた。
「話は聞いたぞ」
「といいますと」
いきなりこう言われて今度は目を丸くさせた。
「何をでしょうか」
「いい相手が見つかったそうだな」
「いい相手!?」
「ははは、とぼける必要はないぞ」
副長は顔を崩して彼に言ってきた。
「あれだ。最近時間があれば会っているそうだな」
「まさかそれは」
「そう、そのまさかだ」
その崩した顔でまた言ってきた。
「噂になっているぞ。色々とな」
「はあ」
「こういうことはすぐに知れ渡る」
副長の言葉は教訓めいたものになっていた。
「すぐにな。少なくとも海軍ではそうだ」
「左様ですか」
「相手は女学生だそうだな」
そこまでわかっているというのだった。
「まだ婚礼には早いがそれでもな。許婚ならばな」
「はあ」
「申し分ないな。何時からだ?」
「ついこの前からです」
素直に副長に答えた。
「この前会って」
「ふむ、早いな」
「それでなのですが」
「そうか。今のところはまだそういった交際か」
「はい、そうです」
また素直に答えた。
「今のところは」
「それでいい。それでそのお嬢さんだが」
今度は彼女への話になった。
「横須賀におられるのだな」
「はい、品のある洋館に」
このことも答えた。
「何人かの使用人の方と一緒に住んでおられます」
「洋館か」
「はい、そうです」
また答える。
「ただ。ご両親と一緒ではありません」
「むっ!?」
それを聞いた副長の眉が歪んだ。
「今何と言ったか」
「ですから。ご両親と一緒ではありません」
「ご両親と一緒ではない」
それを確認して腕を組みはじめた。
「そうなのか」
「それが何か」
「いやな」
ここでさら
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