第五章
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宜しいのですか」
「ですから。宜しければ」
また言う伊藤だった。
「如何でしょうか」
「御願いしても宜しいのですね」
「はい」
はっきりと答えた伊藤であった。
「是非。お任せ下さい」
「そこまで仰るのなら」
祥子は伊藤に対して何の疑いも抱いていなかった。彼の誠実な申し出を信じたということもそうだがそれと共に軍人という職業への信頼もあった。この時代軍人は悪いことはしないと信じられていたのだ。軍人は頭も身体も優秀で品行方正な者がなるものだったからだ。
「御願いします」
「はい。それでは」
「私のお家はですね」
「はい」
「あちらです」
まずは道の右手に顔を向けてきた。
「あちらの方に少し行きまして」
「どうなるのですか」
「詳しく案内させて頂きますね」
「はい、御願いします」
こうして祥子を守りそのまま彼女の家までついて行った。玄関まで辿り着いたその時彼は驚くことになった。まずはその玄関を見てだ。
「何と」
「どうされましたか?」
「ここが井伏さんのお家ですか?」
「はい、そうです」
伊藤に顔を向けて静かに答えてきた。何とその玄関は西洋風の巨大な門だったからだ。普通の玄関と言っていいものではなかった。
「ここですが」
「何と。いや」
最初は驚いたがすぐにわかった。祥子は話し方や服装を見ても育ちがいい。それならばそれなりの家にいることは当然であった。
「何でもありません」
「そうですか」
「井伏様ですか」
「母の姓です」
穏やかに笑って述べてきた。
「母の」
「お母上のですか」
「ですが。今はいません」
伊藤に対して寂しい顔を見せてきた。
「今は。もう」
「そうですか」
それがどうしてかはわかった。だからあえて問わなかった。伊藤の気遣いである。
「それでですね」
「ええ」
そのうえで祥子の話を聞く。
「今は私と」
「貴女と」
「婆やと二人の女中と一緒に暮らしています」
「こちらのお屋敷にですね」
「はい、そうです」
見れば見事な洋館だった。白い二階建ての大きな屋敷で斜になった屋根は赤い。その屋根がまた白い壁と対比になっていて実に見栄えがよかった。
「ここにです」
「そうなのですか」
伊藤は話を聞いてからまた問うた。
「それで」
「はい。何でしょうか」
「学校にはいつもお一人で」
「はい、そうです」
静かに伊藤に答えてきた。
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