第四十話 思いの外
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港に浮かぶクルーザーに住んでるというのはもっとイカれている。
「……何だかんだ、癖のある人が集まってくるんですねぇ。ミセス渡辺の資金援助のおかげで、短期間のうちに練習環境があり得ない程に充実したのは嬉しいですけど。」
神奈子に翻弄される権城を見て、ジャガーは苦笑いしていた。
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カン!
「ほい!ファースト!」
高校生の部活なのに、南十字学園の野球部には練習のお手伝いさんが来るようになっていた。プロの練習補助の仕事をしている連中を神奈子が何人か引き抜いてきたらしい。今の年収の三倍ほどの条件を出してやれば、仕事内容が高校生の手伝いだろうが余裕だそうだ。これもまた、凡人には全く想像もつかない世界である。
「サード!」
カン!バシッ!
「おっしゃ!送球まで完璧!」
松山がモブキャラながら、軽快な動きでノッカーのゴロを捌き、糸を引くような送球を決めて調子に乗っている。松山の守備は案外上手い。モブキャラの癖に。
(一年生達、思いの外守備が上手いんだよな。動きのキレも、スローイングも良い。中等科の硬式が、姿を中心にした守りのチームだったのかな。地道に練習しなきゃできないはずの、基本的な堅実なプレーができてる。気まぐれな三年生達は、センスはあって下手では無かったけど、ここまで丁寧にはできなかった。)
お手伝いさんのおかげで効率良く進む守備練習の様子を、権城は球場の外をランニングしながら眺める。一年生達にももちろん、個性はある。だが、この守備を築き上げてきたその精神性を推察する限り、気まぐれでいい加減で粗暴な三年生(別に紅緒とか哲也とか譲二とか月彦だとは言ってない)より、チームにまとまるのが早そうである。
「せーんぱいっ♪ペースが落ちてますよっ」
「ご自分の練習も忘れないようにして下さいよ」
「……サボってる」
拓人、姿、シモーヌの三人が権城に追いついてきた。この三人は、権城と同じランニングをこなす投手陣。もちろん、それぞれに魅力がある。
「おう、悪い悪い。じゃ、アゲてこうか!」
「ちょっとー!?いきなり速くなったー!?」
「……」(姿は黙って走るペースを上げた)
「……もう、暑いのに……」
炎天下を勢い良く走っていく権城の背中を、三人は追いかける。
苦しいはずなのに笑顔が弾ける、これもまた青春の一ページ。
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