第二章
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「それはね」
「そうか。それは何よりだな」
「皆変わらないよ」
母は優しい笑みで息子に告げてきた。
「それでね」
「何だい?」
「御前、そろそろ」
「そろそろってまさか」
「そう、そのまさかだよ」
顔が少し真剣なものになっていた。その顔で息子に言うのだった。
「身を固めないのかい?」
「わし等が今一番気にしているのはそれなんだよ」
「それって言われてもね」
だが伊藤は両親のその言葉に今一つ晴れない顔を見せてきた。
「今のところは」
「結婚するつもりはないのかい」
「ないわけじゃないよ」
それは否定するのだった。
「それはね」
「じゃああるのかい」
「それはよかったけれど」
「言われてるんだよ」
ここで困った顔を見せる伊藤だった。それは息子としてよりも海軍士官としてのものだった。
「あまり変な相手とは遊ぶ位にしておけってね」
「遊ぶだけ?」
「うん。結婚する相手はさ」
ここでまた一つ海軍の難しさが述べられた。
「しっかしした家じゃないと駄目だってね」
「しっかりした家っていっても」
「うちはほんの農家だよ」
彼等にしてみればそうだった。あくまでほんの一農家なのだ。その意識しかない。
「それでどうしてしっかりした家なんて」
「その人さえまともなら」
「どうもそういかないんだよ」
だがそれでも彼は両親に言うのだった。酒は何時しか三人共止まっていた。
「海軍だとね」
「難しいのね」
「難しいよ。むしろね」
「むしろ」
「そういう意味じゃここにいる方がよかったかな」
「馬鹿を言え」
今の言葉はすぐに父親によって打ち消されてしまった。
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