少女は龍の背に乗り高みに上る
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の男と自分は同じになったと気付いて、もはや恋という愛らしい少女には戻らない。
自分は殺したいが、恋の事を想えば二度と会いたくない。それがねねの本心。
「出会うかどうかは曹操次第だ。それと勘違いしてるのか? 一緒に行くのはねねだけな。呂布は此処に置いて行く」
瞬時に思考を回したねねはうざったそうに口を尖らせた。
「……袁家の虫は、そんなに集ってくるのですか」
「孫呉もな。最近増えただろ? 虎はオレの事を調べたくて仕方ないのさ」
「居ない隙を突いての戦には――――」
「ならねー、させねー、ありえねー。オレが起きてる以上、虎が自由に動けるわけがねぇんだ。だから牽制も込めて曹操の所に出向く。覚えておけよ、ねね。一つの糸を引いて他の糸も操るのが一流の軍師だ。その高みに辿り着けなくても、自分を相手に状況を置き換えて、自分達がされて嫌な事をしてやりゃあいい。悪戯、いじわる、嫌がらせ……その全てが策になるんだぜ?」
憎しみが知性の光に呑み込まれたのを見て、自慢げに語り聞かせる龍飛は、師というよりは母に見えた。
黒いタールのような感情が渦巻いていたはずのねねの心は、その穏やかな表情に救われている。
恋が哀しい情報を聞く前にこの優しさに包まれていたなら、と思ってしまうのも詮無きこと。
じくじくと心を苛む悲哀を押し込めて、ねねは龍飛に強い瞳を向ける。もっと、この龍から学ばなければと心に誓って。
「頭に刻み込んでおくのです。それとねねは……龍飛に着いて行きますぞ。恋殿と離れるのは寂しいですが、呂布隊が居ない今、智謀知略でも守れなければ、恋殿の専属軍師とは言えませんからな」
「その意気だ。キヒ……さあ、今はおやすみ。オレはここにいる。お前の気持ちを分かってやれる。お前は独りぼっちじゃないんだ」
ゆっくりと目を閉じた。
優しい声音が子守唄のように耳を擽る。頭を撫でる手が温もりを与えてくれる。
次第にうとうとと、心地いいまどろみが全身を包んでいっていた。
「大丈夫……大丈夫さ。オレが……お前を高みに連れて行ってやる。オレを誰だと思ってる? 天下に名高い賢龍だ。誰よりも……高く飛ばしてやるさ」
小さな寝息が聞こえ始めた。
慈しむように一つ撫でた後に、龍飛はねねの身体を抱きしめた。
そしてそっと……耳元で囁いた。
「憎しみは、なーんにも生み出さない。お前みたいなガキがいつまでも引き摺られていいモノじゃねーんだ。だから、悪いこと全部教えて高みに連れて行ってやるから、憎しみを呑み込んで……幸せになれ。お前はもう、守るべきオレの子なんだから、さ」
旧き龍では無く母である彼女は……主の為に走り続ける小さな少女の平穏を願っていた。
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