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良縁
第十四章
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第十四章

「それは本当ですか」
「はい」
 あの喫茶店で祥子と会っていた。そこで彼女から直接言われたのである。
「私は。正式にそうなったのです」
「そうですか。娘に」
「縁組です」
 縁組という言葉が出て来た。
「縁組で。お父様の正式な娘となりました」
「正妻の娘にですか」
「そうです」
 こくりと頷くのだった。
「私を。迎え入れて下さったのです」
「そうですか。貴女を」
「新しいお母様ですが」
 つまり岩上の正妻である。正妻と妾の間には様々な因縁があるのはよくあることだ。
「ですが。快く迎えて下さいました」
「そうだったのですか」
「お父様には私の他にもそうした人がいるらしくて」
 やはりこれも当時ではよくあることだった。宰相を三度務め元老として陸軍の領袖の一人でもあった桂太郎も芸者を愛人にしていた。伊藤博文に至ってはあまりにも有名だ。彼の好色さは生前から風刺画の題材となりハルビンで暗殺された時にもそれが揶揄されて程だ。
「ですから。そういった方々も」
「そうでしたか」
「そして全てを公にされました」
「全てとは」
「御自身の資産です」
 次はこれだった。
「これにつきましても」
「!?そういえば」
 ここで伊藤にも思い当たる話が出て来た。
「公爵は全ての資産を公開され」
「はい」
「不正がなかったことが確認されたとのことですね」
「そのうえでです」
 さらにあるのだった。
「もう。公から退かれ」
「そうして?」
「京都に入られるとのことです」
 今度はこれであった。
「京都の。お寺に」
「お寺というと」
「はい、そうです」
 これはよくわかる話であった。伊藤にも。
「出家されるとのことです」
「それはまた古風な」
 話を聞いて思わずこう言ってしまった伊藤だった。
「出家されるとは」
「全てを捨てた証とされたいそうです」
 だからだというのである。
「それにより」
「そうなのですか」
「実際に。もうその準備を進めておられて」
「もうですか」
「はい。お寺の方とも」
 こう言うのである。
「お話を進めておられるとのことです」
「そうだったのですか」
「ですがこれで私達には」
「迷惑はかからないと」
 確かにそこまでやればである。如何に日本の黒幕とまで言われている男の妾の娘との婚姻であってもだ。伊藤に迷惑がかかるとはとても思えなかった。
「こう仰いました」
「公爵はそこまで」
「ですから伊藤様」
「はい」
「私達は幸せになりましょう」
 こう伊藤に対して言ってきた。
「絶対に。何があっても」
「そうですね。公爵の御心を受けて」
「私にも。僅かですが資産を分け与えて下さったので」
「それもですか」
「伊藤様の海軍でのお働
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