第十三章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
第十三章
「祥子のことは」
「はい」
強張っていた。その顔での返答だった。
「それは。もう」
「わかっているのなら話は早い」
伊藤の言葉に応えてからまた言うのだった。
「いいのか?それで」
「いいのかといいますと」
「だからだ。貰ってもらえるか」
これまたかなり率直に彼に対して問うてきた。
「祥子を。それで」
「それは」
「わしのことも知っているな」
「そうです」
この返事もまた決まっている返事だった。
「それももう」
「はっきり言おう。わしの評判は悪い」
言いにくいことを自分から隠すことなく言う男だった。そしてそこには悪びれたものも姑息なものもなかった。ただ事実を言うだけである。
「海軍でもな」
「それは」
「隠すこともない」
そしてこれを隠すなと彼に返すのだった。
「これはな」
「そうですか」
「事実は事実だ」
やはり自分でこのことを受けている岩上だった。
「それを隠すつもりも拒むつもりもない」
「わかりました」
「そのうえでまた聞こう」
厳粛な言葉がまた出された。
「娘を。妻に貰ってくれるか」
「実を言いますと」
まずこう言う伊藤だった。
「私も考えていました」
「考えていたとは」
「はい。あえて名前は申しませんが」
それは隠すのだった。
「ですが上官に制止されたのは事実です」
「そうか。やはりな」
岩上はそれを聞いて納得した顔で頷くのだった。
「そうだと思っていた」
「そして私も悩んでいました」
「悩んでいたか」
「どうしようかと」
このことを告げる。
「どうすべきかと。思い」
「思い」
「長い間船から出ることはありませんでした」
何とか言葉を口から出すのだった。本当に何とかだった。
「船から。ですが」
「娘と会ったのだな」
「そうです。その時断ることはできませんでした」
このことを岩上と。そして祥子に対して話すのだった。
「いえ、逆らえませんでした」
「逆らえなかったか」
「こう言ってしまえば軍人失格でしょう」
じっと岩上と祥子を見て語る。
「ですがこれは。私は」
「己の心に逆らえなかったのだな」
「その通りです。どうしても」
「どうしても?」
「はい、ですから」
また口を開いて述べた。
「私はお嬢さんと」
「わかった」
岩上は彼のその言葉を受けて頷いた。
「君の心は」
「はい」
「済まない」
そのうえで礼の言葉を述べるのだった。
「わしのことも。娘の生まれのことも知りながら」
「・・・・・・・・・」
岩上の言葉を沈黙して聞いていた。あえて何も語らず。ただ聞くだけだった。
「受けてくれたか」
「迷ったのは事実です」
「誰でも迷うものだ」
それは当然だと
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ