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良縁
第十二章
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ったのだ」
「そうでしたか」
「伊藤真太郎少尉だったな」
 今度は彼の名を呼んできた。
「間違いないな」
「その通りです」
 ここでも隠しはしなかった。隠してどうにかなるものではないことがよくわかっていたからだ。だからこそ毅然として返したのである。
「それは」
「そうだったな。では」
「はい」
「まずは座ろう」
 こう伊藤に言ってきた。
「そこのソファーにな」
「わかりました。それでは」
「では祥子」
「はい」
 今度は祥子に声をかけ彼女も静かに応えてきた。
「コーヒーを用意してくれ」
「畏まりました」
「三つだ」
 数も指定してきた。
「三つだ。いいな」
 こうしてコーヒーも言われ伊藤は部屋の黒い皮のこれまた重厚な幅の広いソファーに座った。向かい側には岩本がどっしりと腰を下ろしている。祥子は彼の横だ。小柄の筈なのに威圧感は相変わらずだ。伊藤はその彼と何とか対しながらそこにいるのであった。
 コーヒーも手につけない。ただ待っていたのだ。彼が何を話すか。固唾を飲んで彼の動きを待ち見守っていたのである。そして。
「話は他でもない」
「何でしょうか」
「娘のことだ」
 横目で祥子をちらりと見ての言葉だった。
「娘は間も無く学校を卒業する」
「そうなのですか」
「以前から決めていた」
 今度はこう言ってきた。
「学校を卒業したならばすぐにだ」
「すぐに?」
「嫁がせるつもりだった」
「左様ですか」
「そしてだ」
 伊藤に言わせないかのようにまた言ってきた。両手を和服の袖の中で組みそれがまた威厳を醸し出していた。一介の海軍将校では到底太刀打ちできないものがそこにはあった。
「君にここに来てもらった」
「私に」
「娘のことは知っているな」
 今度はこのことを問うてきた。

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