EPISODE36 喪失
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暗い部屋に挿し込む月明かりに照らされ、ライは窓の向こうの夜空で輝く蒼い月を見上げている。その瞳はどこか虚空を見るようで何を捉えているのかは定かではない。
ただ、誰も映していないことだけは確かだ。いつもの彼ではない、どこか別人のような雰囲気で静かに佇む少年に語りかける声がある。
「感傷的に浸るのはいいですが、御体が冷えてしまいますわよ“蒼月さん”」
「ん・・・・すまない、“オルコットさん”」
感じる違和感は夢ではない。今朝起きたことも、自分を見る彼の瞳が此方を見ていないことも何もかも。だがそれを知っているのはセシリアだけであり、当の本人にとっては現在進行形で現実でありそれが今まで通りのことであることは知りうる術を持たない。ただ、わかっていることは一つ。
もう、彼の世界にはセシリア・オルコットという少女は“存在しない”。
部屋のドアが閉まるとライに並んでテラスから月を見上げる。
「少し懐かしくてね」
「そうですか。以前も、こうして月を見ていたのかもしれませんわね」
失った時を想い目を閉じる。もう欠片も残っていないがそれでも思い出そうとする辺りきっと大切だったんだろう。
声も顔も雰囲気も、どんな匂いだったのかさえもう思い出すことはない。粉々に砕け散った破片は闇へと消え二度と戻ることはないだろう。それが悲しくて、ライは月を見る。こんなにも美しい青なのに―――――今はもう、色さえ見えなくなっていた。
「・・・・よい月ですわね。今宵は満月ですか」
「・・・・僕は」
「はい?」
囁くような小さな声にセシリアは訊きかえす。
「僕は、何を失ったんだろうって。ずっと考えていたんだ。でも、なにも出てこない・・・・きっと、大切な想い出だったのにね」
そう呟く声はとても悲しそうなのに。なのにその顔は――――笑っていた。
「泣いているのか?」
その言葉が出てくるまで自分が泣いているのに気が付かないでいる辺りとても鈍感だと思う。頬を伝滴を指で拭うがそれでもあふれて止まらない。どんどん出てきて最後には感情を抑えられなくなって声が漏れる。みっともない、オルコットの当主がこんなことでは世間に笑われると気丈に振る舞おうとするも心を鎮めようとすればするほど感情のふり幅は大きくなりどんどん膨れ上がる。
情けない。そう嘆きつつも、溢れるものを止める術をセシリアは知らなかった。
だから
「どうして泣くんだ?」
「あなたが、泣かないからです・・・・・どうして、あなたがそんな・・・・!」
これが精一杯とセシリアは耐え切れず部屋を出て行ってしまう。向かった先はもちろん自分の部屋だ。電気もつけず、ベッ
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