EPISODE35 失くしたモノ†失くしたくないモノ
[1/4]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
しまったと、篠ノ之束は左手の親指を噛みながら空間投影されているホロウィンドウに記されているデータを見つめる。それは自身でも渾身の出来と謳った“存在しないはずの機体”ランスロットクラブの人口AIデータ、そこから定期的に送られてきていたライの詳細データである。だが第二形態移行した今、彼女の手を離れ完全に遺脱した物となってしまっている。
「む〜、あの魔女、友好的かと思ったらトンデモナイ奴だったよ。まさかこの束さんを出し抜くなんて・・・・」
玩具を取られた子供のようにグギギと悔しそうに今度はハンカチを噛みしめ吠える。「あ」と急に何か思いついたようでコンソールを叩く。キーの上を滑る指は軽やかで速い。まるでピアノの連弾を見ているような印象を受ける。そうしている内に、束は指をピタリと止めて口角をニヤリとあげる。
笑った。これまでにないくらいに。ああ、これが敗者になりかけた者が絶対の勝機を手にした時の気持ちか。
実に心地いい。こんな気分もたまには悪くない。こんな気持ちを味あわせてくれたあの魔女に感謝したくなったと、束はケタケタと笑う。
“能力消滅”(エフェクトキャンセラー)。それは篠ノ之束にとって、唯一の彼との繋がりだった。
◇
青い空、白い雲。いつも見る光景も場所が違えば雰囲気も変わる。今いるのはIS学園ではなくイギリスのオルコット邸内に設けられた客人用のVIPルーム。カーペットから鏡の備付の机まで何から何まで高級品のオンパレード。広さも何もかも学園の寮とは比較にならないくらいに豪華な部屋でライはただボーっと座っている。ベッドは程よく柔らかく、ライの座っている箇所が窪み中のバネが静かに音を立てて軋み、わずかに押し上げる。それを手触りを確かめるようにしてライは止めていた思考をまた巡らせる。
情報は膨大だ。内容も濃密。正直かなりの進歩で驚きを隠せない。血筋は名家同士のハーフでセシリアと同じイギリスの血が混じっている。それが何故か嬉しくて頬を緩めるがそれを首を振って宥めた。
[何をニヤついてるんだむっつりスケベ。だらしない]
「変な言いがかりはよしてほしいな」
[おまえの血がどうなろうと私の知ったことではないがそのような腑抜け面は見たくない。もう少しシャキッとしろシャキッと]
一理ある。そう思って深く深呼吸をしてふわふわした気持ちに鎖を繋いでしっかりと固定する。収穫はあった。記憶の手がかりもあった。なら、これでよし。これ以上セシリアに迷惑はかけられないから後のことは自分でやろうと心に誓う。
[…ん?なんだこれは]
「どうした?」
C.C.が急に湧いて出たウィンドウを拡大展開する。そこには単一能力解放許可、ブラックボックス解放
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ