第十一章
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あった。もう迷いはなかったのだ。ただ彼女の申し出を受けた。それだけだった。艦長や副長の言葉はわかっていたがそれでもであった。彼は頷いたのである。
ふとコーヒーを口に含む。含んでみるとそれは。
「これは」
「もう冷めていますね」
「はい、全くです」
苦笑いを浮かべ合っての言葉であった。
「早いですね。冷めるのが」
「全くです。ですが」
伊藤は苦笑いと共に祥子に言った。
「これもまたいいものですね」
「はい。熱さはないですが」
「苦く。それでいて」
「甘いです」
「熱さもまた必要ですが」
「それだけではないですね」
二人がこのコーヒーから学んだのはこのことだった。
「ちゃんと。味があればそれで」
「はい、いいと思います」
「それでは次の日曜に」
「ええ」
言葉を交えさせる。
「御願いしますね」
「こちらこそ」
その冷めてしまったコーヒーを飲みつつまた話した。そしてその次の日曜日。海軍の軍服で祥子の洋館の前にいた。その彼を出迎えたのは桜色の小袖を着た祥子だった。
「ようこそ」
「ええ」
まずは祥子の挨拶に応える。
「おいで下さいました」
「それではですね」
「はい」
さらに言葉を交えさせる。
「こちらです」
「それでは」
案内されて洋館の中に入る。欧風の焦茶色の木の扉をくぐると白い壁と扉と同じ色の木の階段や床、それに扉が見える。館の中は外観よりも広く見えた。
「中ははじめてでしたね」
「はい、そうです」
緊張した顔と声で祥子に答える。
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