第三十八話 カーテンフォール
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鬼気迫る表情で投げ込んでくる。そのボールに権城も食らいついていく。両者の気迫がぶつかり合う。
「権城ー!!打てよぉーーー!!」
「打ってくれ!頼む!」
「お前にすべて任せたァーーー!」
「権城先輩!頑張れーーー!!」
哲也が、譲二が、月彦がさけぶ。一年生達も必死だ。権城は打てる気がした。
自分は一人で野球をしてはいない!
(ここで打たなきゃ男じゃねぇー!!)
浦中はこのピンチに、かわしにはかからなかった。自分の最も自信のある球、ストレートを最後まで投げ込んだ。そのストレートを、コンパクトに前でひっぱたいた。
カァーン!
快音が響いた。
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バシィ!!
権城の会心のライナーは、マウンドに仁王立ちした浦中のグラブに収まった。その瞬間、神宮球場に大歓声が満ちる。
「…………」
権城は言葉もないまま、左打席に両膝をついた。
「あぁ……」
「終わった……」
マウンドに集まってハイタッチを交わす帝東ナインの姿を目の当たりにした南十字学園ベンチは、あまりにも呆気ない幕切れに、誰もその場から動けなかった。
(夏が、終わったか……)
紗理奈はネクストバッターズサークルで、神宮の空を見上げた。突き抜けるような青。その青色に、紗理奈は微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーー
「よく頑張ったぞサザンクロスー!」
「最後はマジ凄かった!!」
「久々に感動したぞー!」
整列後、ベンチを片付ける南十字学園ナインには、暖かい大きな拍手と声援が降り注いだ。帝東を上回る14安打。八点差を一点にまで縮めた終盤の怒涛の追い上げは、観る者を魅了した。
「なぁ、終わったんだよな本当に?」
荷物を片付けながら、譲二が哲也に尋ねる。
「あぁ。……終わったよ。」
「俺たちの、ガキの頃からの野球が」
「あぁ。終わったんだ。」
その瞬間、譲二の動きが止まった。
肩を大きく震わせたかと思うと、目から大粒の涙をこぼし始めた。
「お前らとももう最後なのか……ちくしょう……もっと……もっと大事に、大事にするんだったなぁ……これまでの一瞬一瞬をなぁ……」
「……楽しかったぜ」
咽び泣く譲二の肩を抱いた哲也も、その目は真っ赤だった。
「紗理奈キャプテン、すいません。キャプテンの前で終わっちゃいました。」
紗理奈の前で、権城は頭を下げた。紗理奈は自分のセカバンのファスナーを締めながら、静かに言った。
「いや、謝らないでよ。……もう十分、“主役”を演じさせてもらったし、このうえサヨナラ、なんて。一生分の運を使い切っちゃいそう。」
話しながら、紗理奈はテキパキとチームの荷物も片付け
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