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トワノクウ
トワノクウ
第十三夜 昔覚ゆる小犬と小鳥(三)
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ったな。まったく我ながら若い娘でもあるまいに」
「いいんですよ」

 くうは朽葉の言をさえぎった。

「いいんですよ。朽葉さんは女の子なんですから。女の子はかわいくていいんです。鴇先生のこと語る朽葉さんは可愛い女の子でいいんです」

 言っていて自分でもこんがらがった。

「――ありがとう」

 朽葉は咲いた花のような笑みでくうの頭を撫でた。
 こんな訳の分からないことを言ったくうに礼を言ってくれた。
 申し訳なくて哀しくて、でも届いているかもと思えることが嬉しくて。

 ほんわかした二人の空気を断ち切るように襖の外から呼び声がした。
 朽葉が立って廊下に出た。
 襖を後ろ手に閉められたので話が不鮮明で聞き取れなかった。

 手持無沙汰になったくうは、小さな窓を開けて外を眺めた。日はすでに落ちかけ、空は茜色に染まっていた。視線を落とせば整えられた庭が広がっている。
 本当に何もかも坂守神社とは違う。ここは陰陽寮なのだ――

(なら、薫ちゃんもここにいるかもしれない)

 努めて考えまいとしていた不安を思い出し、くうは音を立てて窓を閉じる。それは自らを守る砦を少しでも保とうという焦りに似ていた。

「どうした、くう」

 襖が開いて朽葉が戻って来た。
 くうは立って朽葉の胸に飛び込んだ。朽葉が困惑したのが伝わり、次いで頭を撫でる感触があった。
 感触に縋って己を落ち着かせることに懸命になった。

「――なあ、くう、快復したばかりのお前にこれを言うのは酷だとは思うが……藤袴に会う気はあるか?」

 落ち着きかけた気分が再び乱れた。

「すまん。辛いだろうとは分かる。だが聞いてくれ。今を逃せば、藤袴とは会話もできなくなるやもしれん」


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