トワノクウ
第十三夜 昔覚ゆる小犬と小鳥(二)
[2/3]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
帝天の名を出したとたんに、朽葉の顔はひどく女らしくなった。女のくうがどきっとした。
「人も妖も一生を天にあらかじめ定められていた。いつ生まれいつ死ぬか、どう生きてどう死ぬか。喜びも悲しみも、出会う者も、愛も心の移ろいも全てだ。天は世界そのものも同じで、このあまつきの命運を特に天網といった。――大丈夫か?」
「にゃんとか……っ」
情報量が多すぎて呂律が回らなかった。
「天網を書き換えられるのは、この世で二人、帝天と、白紙の者だけだったんだ」
やっと話がくうの父親とつながった。
「佐々木殿の話では、紺が他者と関わるたびに相手の天網が書き換わったという。関わった人の運命が変わったんだ。それが白紙の力だからな」
くうはぞっとした。自分のせいで他人の人生を狂わせたりしたらと思うとそれだけで道も歩けない。父はよく平気でいられたものだ。
「それに紺本人も気づいて、一年ほどで自ら天網に囚われることを選んだ。生き死にと人生を帝天に委ねたが、代わりに他者の運命を変えることもなくなった」
前言撤回。父が平気でいられるはずがない。証拠に自ら自由を手放している。――一人娘のくせに最愛の父親の心境を見誤るなど、不覚。
「彼岸から来たらもれなく白紙ですか?」
「いいや。今は天網がない。帝天が代替わりして、新しい帝天は定まった明日を拒んだ。変えるべき天網はもうないのだから、彼岸人もただ『彼岸から来た者』というだけの意味合いになった」
「そ、そうですか」
よかった。ひとまず歩くだけで人様に迷惑をかけることはなさそうだ。
「朽葉さん、質問いいですか」
「いいぞ。紺の思い出話でもするか?」
「そちらにも大変興味はあるのですが、また今度。さっき帝天が代替わりして定まった明日を拒んだ、とおっしゃいましたよね。察するに父がいた頃、六年前はまだ天網があって今はない。もしかして朽葉さんはその代替わりに関わっているんですか?」
朽葉は困った顔をする。加えて切なげだ。しまった。藪蛇だったか。
だが一度口に出したものをなかったことにはできない。くうは気まずさに耐えて解と朽葉の気持ちの整理を待った。
やがて朽葉は観念したような溜息をひとつ吐いた。
「帝天とはいっても特別な存在ではない。元はただの彼岸人だ。今の帝天があまつきに来た時に助けたのは私なんだ」
「てことは、朽葉さんはその帝天の人とお知り合いなんですね」
「ああ。帝天の名は六合鴇時。この世に生きる者全てが己の意思で明日を作れるようにと祈って天に至った、我らと同じ、ただの人間の男だ」
すこん、と頭の中で間抜けな音がして思考の底が抜けた。
「朽葉さん」
「なんだ?」
「その人、くうのよく知る人なんですけど」
「紺から話
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ