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トワノクウ
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第十三夜 昔覚ゆる小犬と小鳥(二)
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 朽葉は茫然と頭に手を当て、帽子(もうす)ごと頭を掻く。そんなことをしては髪が乱れてしまうのに。

「お前の父親は何歳だ?」
「四十過ぎだったと思います。あの、朽葉さん」
「――私の知る紺は、私より二つ歳上だった。今は二十五のはずだ」
「ほぇ?」
「お前の父親と私の知る男が同一人物なら、年齢がずれている。ありえない」
「えっ、えっ? でも、梵天さんは、お父さんがあまつきに来たことがあるとおっしゃいましたよ」

 梵天はくうが篠ノ女紺の娘だと知っていた。そして、あまつきを壊す者にして守る者だったと言った。

「天狗が話したのか。――だったら確実に同一人物だな」

 ゲーム脳のくうが思いついたのは、二つの世界間で時間の流れがずれているという法則だった。あまつきの時間は彼岸より遅い。

(帰ったら浦島太郎!? そんなの断固として御免なのですよ! 早急に帰る手段を見つけねばっ)

「くう? どうした、バタバタして」
「こっちの事情です。朽葉さん、ひょっとして前に話していた彼岸人の一人って、お父さんのことだったんですか?」
「ああ。紺のことだよ。料理の味が似ていたから縁者だろうと思ってはいたが、まさか父娘とは。世の中驚くことだらけだ」

 朽葉は苦笑する。苦笑でさえ美しい人だ。

「少し、昔話をしようか」

 朽葉は遠い目をした。双眸は、なつかしさと切なさから芽吹いた双葉のようだった。

「今から六年前、いや、八年前か……私が紺と初めて会ったのは。お前のように鵺に襲われたあとだった」
「お父さんはどこを奪られたんですか?」
「右腕だ。なのに料理の腕は達者でな。まあ私も手伝ったが」
「お父さん、両手とも普通に使ってましたよ?」
「そうなのか? 彼岸で治したのかもしれんな」

 ふむ、と朽葉はあっさり流したが、くうは脳内メモに付箋しておいた。

「紺は、初代〈白紙の者〉だった」

 耳慣れない称号に、くうははてなと小首を傾げる。〈白紙の者〉がどんなものか分からなければ「お父さんすごい!」と驚くこともできない。

「ここからはややこしくなる。心して聞いてくれ」

 首振り人形のまねをしてかくんと肯いた。

「白紙とは、平たく言えば運命を変える者だ。これはこの世の外の天人、彼岸人にしかできない」
「運命なんて……でもそれは普通のことじゃないですか? 結局未来がどうなるかなんてみんな分かんないんですし、そしたらみんな自分の未来は自分で作ってるってことでしょう?」

 朽葉は、大掃除でずっと昔の失せ物を見つけたような顔で、くうをまじまじと眺めた。

「普通にしてたら、それでいいんだが」

 朽葉は苦笑した。

「このあまつきには絶対の神がいる。その神を帝天、というんだが」

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