第四章 誓約の水精霊
幕間 憧れの人
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不思議な夢を見るようになったのは、いつからだったでしょうか。
夢に現れるのは、いつも違う光景。
一面焼け野原の戦場跡だった時があれば、緑溢れる森の中だったり、天を突くかのような建物が立ち並ぶ夢もありました。
そのどれもが見たことはおろか、想像もしたこともない光景でしたが、その中に、たった一つ……一人だけ自分が知っている人がいました。
騎士……それが、わたしが初めてあの人を見た時の印象でした。
鷹のような鋭い眼光。
鍛え抜かれた身体。
語らずとも分かる、その身に秘めた力。
遠目で見た時のあの人は、ひと目で特別な存在と分かり、貴族でも何でもないただの平民のわたしには、とても近づき難い人でした。
だけど……木の根につまずき、あの人の胸に支えられたわたしに、笑い掛けてくれたあの人の笑顔は、とても優しく、暖かく……だけど何だか子供っぽくもあって、とても、その、可愛くて……――
それから、色んなことがありました。
夜の食堂で呆然と立ち尽くすあの人に頼まれて、厨房の鍵を開けてあげると、コック長のマルトーさんに勝らずとも劣らない手腕であっという間に料理を作って、一緒に食べたことや、鍵を開けてくれたお礼にと、料理の配膳を手伝ったりしてくれたり。
あの人はいつも優しく穏やかで、最初近付きづらい人だと思ったのが嘘なくらい、いつの間にか自然に話すことが出来ていました。
でも……やっぱりあの人は特別な人でした。
わたしがある貴族に絡まれた時、何でもないことのように助けてくれたあの人は、信じられないことにその貴族と決闘を行い……何と勝ってしまいました。
それから、王都を荒らしまわっていた盗賊の『土塊のフーケ』を、貴族の方々と一緒に退治したり……噂では、さる高貴な方の密命を受け、何らかの戦功をあげたりと……やっぱりあの人は、平凡なわたしとは違う、特別な人でした。
わたしなんかが、気安く話し掛けられる人ではないと分かっていたけど、あの人の顔が見たくて、話したくて……傍にいたくて……時間が空くたびに、知らず話し掛けてしまっていました。
あの人と話しをすればするほど……近づけば近づくほど……もっと話したい、もっと近づきたいと際限なく高まっていく思い……
だけど……あの人は私とは違うからと、いつも心のどこかで諦めていた。
見ているだけでよかった……
だって、あの人は強いから……
話しが出来るだけでよかった……
だって、あの人は特別だから……
近くにいるだけでよかった……
だって、あの人は……一人でもきっと大丈夫だから……
そう
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