第6章 流されて異界
第96話 狭間の世界
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人間が集まる学校だと言う事を感じさせられた。
そう。冬の朝に相応しい……とは言い難いながらも、それでも冷たい空気に支配された廊下と、人の体温。そして、多くの人が存在して居るが故に高い湿度に保たれた教室内の空気との温度差は、おそらく五度程度の違いが有るはずですから。
ドアを潜り、妙にザワザワした雰囲気の教室内に侵入する俺。それなりの偏差値の学校らしく、教師が入って来た段階では既にすべての生徒たちは自らの席に着いた状態で待ち構えている。
そのまま教壇の真ん中。すべての生徒の視線の集まる場所にまで歩を進める綾乃……甲斐先生と、教室の入り口辺り。丁度、時間割が貼られている前辺りで立ち止まる俺。
「皆さん、おはようございます」
生徒たちが着席して視線を上げた時、制服に身を包んだ一同を一当たり見渡した後に、甲斐先生はそう朝の挨拶を行った。
礼儀正しくて、妙に子供っぽい声。身長は俺よりも二十センチほど低く、化粧っ気の少ない彼女は、どうかすると生徒として席に着いて居る方がしっくり来るような女性。
そう。小柄で童顔。髪の毛は肩の位置で切り揃えられ、色は当然黒。濃い茶系の瞳を納めた目は優しく、そしておっとりとしたやや下がり気味。高校の教師と言うよりは保育園の保育士さんと言う雰囲気の彼女。
但し、これでも既婚者。既に旦那さんが居ると言うのだから、世の中間違っている、と思わなくもないのですが。
俺の暮らして居た世界では三年前……西暦二〇〇〇年に彼女は結婚しましたから。
まして、この世界でも旧姓の方ではなく、甲斐と言う名字を名乗って居ますから、その辺りの事情は変わらないと思います。
確かに細部まで完全に一致している訳ではなく、少し違う部分も有るのでもしかすると違う可能性もゼロ、と言う訳ではないのですが……。
「今日は最初に転校生の紹介を行います」
それまで、一応、視線は教壇の上の甲斐先生の方に向けていながら、意識はかなりの生徒たちが俺の方に向けていた。
まぁ、こんな季節外れの時期。明後日から二学期の期末試験が始まる日に転校などして来る人間はいないでしょう。
普通はね。
どうにも他人の注目を浴びると言う事が苦手な俺なのですが、こんなトコロで怯んでばかりも居られない。取り敢えず、普通の転校生と言う存在を演じるにはどうしたら良いのか……などと考えながら教壇に昇り、黒板に自らの名前を書く。
そうして振り返り――
授業が始まると、教室の中と言うのは例え四〇人以上の人間が居たとしても、それぞれ一人きりの時間と成る。教壇の上で初老の数学教師が黒板に向かって重要な公式を板書して居ようとも、それ以外に気がかりな事が自分の中に有ったのならば、そんな事は二の次にされて仕舞うのは仕方がない。……と
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