第6章 流されて異界
第96話 狭間の世界
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ールでさえも殺すと言われている毒液。こいつを一滴でも浴びて仕舞えば、俺程度の存在など跡形もなく消されて仕舞う可能性が大。
そして同時に、この場所からの早期撤退を望む。
強く、強く、強く。この場所からの移動を強く願う。何モノに願うのかは判らない。しかし、このままここに居ても自我が霧散して仕舞うか、ヨルムンガンドに消されて仕舞うかの二択しかない。
その瞬間。急速に後退――赤い光に包まれ、現在枯死しつつある巨木と、それに巻き付く巨大な蛇から遠ざかり始める俺。
しかし! そう、しかし!
その逃げ出す俺の速度に倍する速度で追いすがる黒き奔流。それは正に津波にも似た様相。三方向から包み込むように接近してくる巨大な黒い壁。
マズイ、これでは逃げ切れない!
次々と立ち上げ続ける不可視の壁。しかし、世界樹を取り囲むとさえ言われているヨルムンガンドの吐き出す毒の前では、そんな物は何の役にも立たない。ラグナロクの際に世界を洗うと表現されるヨルムンガンドの吐息を此の世でもない、ましてや彼の世でもない、閉ざされた世界で味わう事になろうとは……。
思わず、笑いの形に表情を歪める俺。最早覚悟を決めるしかない状態。嗅覚は麻痺したのか、あれほど強く感じていた腐臭も今は感じる事もなく、実体が存在して居るかどうかも判らない現状故に、シルフを起動させての転移魔法も不可能。
但し、今の俺に本当の意味で表情を浮かべるべき顔が存在して居るのかも疑問な状態、……なのですが。
刹那。
急に後方、やや下方に向けて身体が引っ張られる感覚。最後の防壁を突破され、黒き奔流に呑み込まれ掛けた身体が、完全なる無へと帰する寸前に虎口より逃れる事に成功。
そして――――
☆★☆★☆
「召喚事故?」
淡い光の向こう側から聞こえる若い女性の声。懐かしいその声に、思わず一歩踏み出そうとして、そのままバランスを崩す俺。
そう、ここは現実界。出し抜けに戻って来た感覚が身体の各所の異常を訴え、踏み出した足……いや、テスカトリポカ召喚の泉付近で行われた戦闘の結果足首よりも先はすべて失い、倒れかけた身体を支えようと咄嗟に大地に着こうとした右手も存在せず……。
更に、何故か視界が朱に染まる。いや、何時の間に傷付いたのか不明ですが、何故か左の眼からの出血がその瞬間に始まったのだ。
しかし……。
しかし、そんな俺を優しく受け止めてくれる何か。……誰か。
そうして……。
「あなたの傷は重い。今は無理をしないで欲しい」
俺を受け止めた少女の普段通りの、……普段と変わりない落ち着いた声音が俺の左耳に届く。そして、何時ものように彼女の洋服を血で汚して行く。
しかし――
――戻って来られた。
彼女の声に
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