第6章 流されて異界
第96話 狭間の世界
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永遠とも、一瞬とも付かない時間。動くモノも、動かない物も何もない。……ただ、赤い色に覆われただけの単調な世界。
耳に届くのは夢幻のフルートの調べと、野生的なドラムのリズム。
薔薇の香気に包まれた無限に広がる世界。
ただひたすら、落下……。自らがそちらの方が下だ、と認識している方向に向け、移動し続ける俺。
周囲を見渡し、そう考えた俺。しかし、その考えは直ぐに首を横に振って否定された。
そう、おそらくは色彩、音色、それに香りも俺がそう感じて居るだけに過ぎない。この場所に対応する……と思われる場所の知識が産み出した幻。その幻を、俺自身が現実の物だと認識しているに過ぎない状況なのだと。
そう考えた瞬間。
最初にフルートとドラムの音色が消えた。
次に、周囲を包んでいた薔薇の香気が消えた。
そして、おぼろげながらに世界を照らし続けて居た赤い光が消えた。
最後に、永遠に続くかと思われた落下する感覚さえも消えた。
後に残るのは虚無。何も見えず、何も聞こえず、何も感じる事が出来ない。ただ、何も存在しない、と言う事のみが実感できる空虚な世界。
自分自身と言う感覚さえ失いかねない状況。
そう。暗闇すら存在するかどうかも判らない虚無の中に溶けだして行く自分。何処から何処までが自分で、何処からが自分以外なのかも判らない世界。
もしかすると……。いやここが、ヨグ・ソトースが封じられていると言われている、自身では脱出する事の出来ない空間の事なのかも知れない。
薄れ行く意識の中でそう考える続ける俺。考える事を止めたなら、その瞬間に俺自身が消滅する。そんな恐怖に囚われた状態。
四肢が。五感が存在して居るのかどうかさえ怪しい現状では、考える事が唯一、自分を保つ事が出来る行為ですから。
その瞬間。再び世界……俺の浮かぶ空間に光が灯った。
本当に微かな光輝。明かりと、そして距離と言う物をこの時に取り戻す事に成功した。
遙か彼方にぼんやりと灯る赤い光。すべての人間的感覚を失い掛けた俺は、その感覚を失いたくない一心から、そちらの方に意識を向ける。
強く、強く、強く。もう二度と自らを失わない為に。
もう二度と何も失わない様に……。
一度距離と方向を確認……認識すると、そちらに近付こうと考えるだけで移動を開始する俺。
いや、感覚から言うと、俺自身が動いて居ると言うよりは光源の方から俺に近付いて来ている、と言う感覚。
体感時間すらも狂わされて居るのか、一瞬の事なのか、それともそれなりに時間が掛かっているのか判らない時間の後……。
これは……樹?
はっきりと形を捉えられるようになった時の感想はそれ。赤い光に照らされた中心にそびえ立つ巨木。俺の感覚では未だかな
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