第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
第一節 離叛 第一話 (通算第41話)
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可変MSで、既に量産が決定しており、連邦空軍に少数が配備されたという噂をジオン軍人なら知らぬ者はない。
「そうなのか?確かにすばしっこそうではあるが……」
「いや、コイツは今までのMSを一気に旧型化させかねん」
今度はアポリーが息を飲む番だった。ロベルトと組んで以来、彼が饒舌であったことなどない。その彼がこうまで驚嘆の念を隠さないということは言っていることが事実である証拠である。
エゥーゴが掴んでいた情報によれば、新型MSは未完成であり、試作機の段階ではなく、実験機の最終段階にあるとのことであった。
「ったく情報部はなにやってんだ!」
アポリーの不満は至極真当ではあるが、実情は些かことなる。
エゥーゴは独自組織ではないため、艦隊機能、基地機能しか持たない派遣された寄り合い所帯であり、独自に軍組織を持っていない。後方機能は派遣元の軍において行われていた。特務と情報、軍令、参謀機能の欠如は、深刻である。それを補うためにかなりの民間人を軍協力者として情報ネットワークを有機的に編成してはいた。また、反地球連邦政府運動組織を取り込んでもいる。つまり、特殊訓練された軍人が情報収集している訳ではないため、情報の精度にバラつきがあるのだ。ただし、アナハイムの関与によって軍上層部や政治関係の情報精度は非常に高かった。本来であれば技術関係の情報収集こそ強いはずのアナハイムであるが、ティターンズ台頭以後、地球至上主義者であるバスク・オムによって排斥されてしまい、技術者同士の横の繋がりもアテにはできなくなっていたのである。
「素人だからな」
ロベルトは素っ気なく応えた。
アポリーにも解ってはいる。しかし、戦争というものにとって、特に前線の兵士にとって情報というものが如何に大切かということを痛感していた。一年戦争は最終的に情報戦で負けたということなのだ。そしてザビ家内部の権力闘争で自滅した。辛うじて本国とグラナダにあった残存戦力が連邦の遠征艦隊を凌駕する規模であったため、終戦協定に漕ぎ着けたに過ぎない。
二人とも今でこそジオン共和国に復帰しているがア・バオア・クー陥落後、シャアとはぐれ、グラナダに身を潜めている間、残党狩りの情報を必死に嗅ぎ付け、潜伏先を幾度変えたことか。
「いままではそれでよかったかも知れないがな、これからはそうは行かないぜ?」
「あぁ。その通りだ」
ロベルトも大きく頷く。
その時、二人の会話を警告音が遮った。
光学センサーに同型機の反応がマークされたのだ。識別コードはクワトロ・バジーナとなっていた。その機体は『赤い彗星』らしからぬゆっくりとした――天体か宇宙屑のような移動速度でミノフスキー粒子濃度の高い所を縫いながら近づいてきた。
作戦はここからが本番であった。
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