第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十四日:『幻想御手』
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白い、白い、白い部屋。気が触れそうな程。実際、知り得る限り、十八人が狂気に呑まれて……その後、何処かに連れられたまま、戻りはしなかった場所。
兄達も、姉達も。弟達も、妹達も。残ったのはもう、この三人だけ。
──ボクの後ろで震える、二人の■だけ……この二人だけは、何としたって。
『────クソッ、ふざけやがって』
体格の良い白衣が、顔の思い出せないのっぺらぼうの白衣が吐き捨てながら右腕を振るう。ガン、と左側から衝撃。転んだ後で、殴られたのだと知る。
それでも、立ち上がる。ここで諦めてはいけないんだ、まだ、まだ。
『何だ、その瞳は────糞忌々しい、合成物体の分際で!』
──二度目、転ぶ。流石にキツい。でも、泣いている。だから、この膝は折れない。少なくとも、殴られたくらいで。大人の拳、幾ら大きくて……強くても。
『気に入らないんだよ、結果も出せない実験動物の分際で────!』
──三度目。幾らなんでも、涙とち血が溢れる。口を切ったのだろう、悔しくて、悔しくて噛み締めた歯で。そうだ、その筈だ。間違っても、暴力に何て屈してない。
『他の科学者どもも、あんなもの程度を目指して満足してやがる……そんなモノに、多寡だか第一位にも及ばずに、“絶対能力者”になどなれるものか────貴様は、特別製の筈だ! 貴様は怪物の筈だ! そうだろう、“五月の王”!』
──打ち据えられる。狂ったように、何度も何度も。狂ったように、口角に泡を噛む白衣の男に。
……ああ、いい加減、限界も近い。いや、いっそ、此処で殴り殺された方が楽かもしれない──
『だめ────』
『────だめ』
──壊れかけの意思に、自我に。響いた声は二つ。酷く小さく、今にも消えそうな程に弱くて。
それでも、しがみ付くように。支えるように、二つの右手。小さな、震える右手の感覚。だから────やはり、屈せはしない!
『大丈夫──ボクは──大丈夫』
──にこり、と。背後に向けて。血が流れてない方の顔で、微笑みかける。それは、安心させる意志である。まだ踏ん張れる事を、確認する行動である。
『貴様────まだ笑うか!』
そして、更なる理不尽の呼び水である。
『やめたまえ、その子は、君よりも遥かに資金がかかっているのだよ』
『きょ、教授……しかし』
『少し頭を冷やしてきなさい、ほら』
──白衣の老爺に促され、白衣の男は仕方なさそうに離れていく。
それを見送り、老爺は。
『さて……では、今日の実験を始めようか?』
──揺れる名札に、『木原』と。姓を記した老爺は、吐き気がする程に朗らかに笑った
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