第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十四日:『幻想御手』
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いと。だが、その結果が……黒なら?
有り得ないと、信じてはいても。人の心に迷いは尽きない。
『魔はそこに付け込み、芽吹くのだ』、と。『だから、神と。正義と言う指針、放棄した思考で楽な道を人は望むのだ』と。敬虔な切支丹の義父が言っていた。
『……はは、分かりました。何処に持っていけば良いですか?』
笑いながら、カシュ、と軽い金属音。プルタブを開けたような、或いはアルミ缶を潰したような。
それに、ほうと息を吐いて。嚆矢は『正午に駅前広場』と告げて、通話を切る。心に、安堵を浮かべて。
「これで、仕込みはよし。後は……『野となれ山となれ』」
「それを言うなら、『後は仕上げを御覧じろ』ですよぅ……」
「そうとも言うんだっけ、最近は」
「古今東西、そうとしか言・い・ま・せ・ん」
わざとらしく、誤用して。誤謬で空気、幾らか和らげて。古い映画の俳優のように、大げさに肩、竦めて見せて。
「ところで、実はこちらも解決の糸口を見付けたかもしれないんです」
「へぇ、糸口を」
と、にこにこ笑う飾利の言葉に興味が移る。あの彼女が、ここまで自信を持って口にするからには、かなりのものだろう。
丁度、駅前広場行きのバスが停まる。それに乗り込みながら、先に段差を上がり、飾利の手を引いてエスコートしながら会話を。
「はい、あの、この事件に協力してくださってる学者さんが────」
と、席に座ったところでコール音が鳴る。嚆矢の飾り気の無い、購入した時の設定のままのものとは違う、最近流行りの邦楽。
「わわ、マナーモードにしてませんでした」
周りに謝りながら、衆目を集めた為に頬を染めて携帯に出た飾利。
「もしもし、佐天さん? もう、何日も連絡取れなくて心配したんですよ!」
相手は、涙子らしい。人の会話を盗み聞きする悪趣味などは持ち合わせないので、窓の外を眺めて時間を潰す事に決める。
流れていく車窓の景色を見ながら、思い返す。忘れてしまった、過去の己。
──何故、か。理由は、もう分かってる。『空白』の神刻文字、そう、飾利ちゃんに刻んだモノと同じ。
もしも、俺にも……アレが、刻まれたのなら。それすらも忘却の範疇に在ったのならば。
そんな思考、その為か、思わず飾利の方を見た。その時──
「────大丈夫ですっ!」
声、鋭く。響いた声は、飾利の。衆目を先程よりも、遥かに多く集めて。驚くほど、大きな声で。
「佐天さんは欠陥品なんかじゃありません! いつだって、私を引っ張ってくれる……わたしの、親友なんだから。だから──」
涙を、洟を流しながら
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