第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
七月二十四日:『幻想御手』
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したのは、昨日の朝。あの、凍てついた視線は今、思い出しても震えてしまう。
「クソッ、昨日の俺の莫迦……もう少し、年上らしく落ち着いた行動しろっての」
等と、自分で自分を叱って。どうやってリカバリーしたものかと思案を巡らせる。
あれだけ有望な子はそうはいないのだから。勿論、今でも十分に魅力的だが、等と真性な事を考えて。
「ほっほ、なんじゃ、誰かと思えば対馬か。お前が朝練とは珍しいのぅ」
「あ────隠岐津先生、お早うございます」
そんな彼の真上に、いつの間にか立っていた痩躯の老爺。合気道部顧問、『隠岐津 天籟』。
起き上がり、一礼を。礼に始まり礼に終わるのは、どの武術も同じ。
「ふむ、ピンポン玉の訓練か。理合の掴み方でも忘れたのかの?」
白髪に山羊のような白髭の好好爺は、朗らかに、ぼうぼうの眉毛に隠れた眼差しでゴミ箱を見る。ピンポン玉の重なるそこを。
「いえ、まさか。先生の教え、忘れたくても、この魂に刻まれてますから」
「ほ、言いおるのう、たかだか三年で理合を窮めた気か?」
からからと笑い、咳き込む。慌てて背中を擦れば、年寄り扱いするなと叱られる。理不尽である。
「兎も角、良い機会じゃ。対馬、お主……最近、蘇峰とは会っておるか?」
「蘇峰、ですか……少し前に、瑞穂機構病院で会いましたけど」
妙な事を問われ、不可思議に思うも正直に。それに、老師は僅かに表情を曇らせて。
「実はのう、最近あやつは大能力者判定を得たのじゃが……」
それは、知っている。その病院で、彼の祖母の口から聞いた。
「ただ、のう……どうも、妙な感じがしてのう……随分と短期間で、能力の強度が飛躍的に上がった気がするんじゃ」
「飛躍的に……ですか」
その言葉に、引っ掛かるもの。そう……今、風紀委員が血眼になって追っている『幻想御手事件』を。
──まさか、あの、蘇峰が?
否定したい気持ちが、まず。だって、知っている。彼がどれだけ真面目な人物か、卑怯や怠惰を嫌うか。それを知るからこそ、嚆矢は彼を、新主将に指名したのだから。
「その時、何ぞ変わった様子はなかったかのう?」
問うた声、その声色は優しく。しかし────虚偽は許さないと、確かな気迫の籠められた声。思わず戦慄するくらいに。
「────俺が」
だから、答えは────ただ、一つ。
「俺が、確かめます。曲がりなりにも、『先輩』ですからね」
「…………」
何の答えにもならない、『応え』を返す。認めたも同然だ、こんなもの。『変わった様子があった』と。
無論、それは老師にも伝わる。彼は、ふう、と溜め息を吐いて。
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