第三十六話 凡人の意地
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ろよ。少なくともこの回までは頑張れ。下位打線なんだしよ。)
<8番キャッチャー山姿さん>
無死二塁で、打席には今日二安打のジャガー。
(こいつには今日二安打されてる……八番の癖に!)
飛鳥はカウント球を打たれた反省から、シンカーを初球から投げていく。ジャガーはそれを空振りした。
(さすがに、慎重に投げてくるボールは打ちにくいですね。さっきの打席なんかは、強引に攻めてきた分だけ単調で打ちやすかったですけど。)
会心の当たりは厳しいと見たジャガーは、ライト方向の進塁打を狙う。
「ストライクアウト!」
「あぁ……」
しかし、飛鳥の意地がそれを許さない。
最後は意表を突いてストレートで懐をえぐり三振。進塁打を狙った分だけ、ジャガーが少し受け身になった所を果敢に攻めていった飛鳥の勝ちだった。
<9番ショート合田くん>
続いて打席に入るのは哲也。先ほど守備で良いプレーがあったが、打撃は精彩を欠いている。
(……こいつは安パイだ)
マウンド上の飛鳥はジト目で哲也を見下ろす。
(くそーっ!こいつ、バカにした目を……)
哲也は意地を見せようと奮い立つが、スランプの時にはそういう風に力めば力むほどダメなのである。
ブン!
「ストライクアウト!」
結局哲也も三振。意地を見せた飛鳥の力投の前に、無死二塁のチャンスが二死二塁となる。
<1番レフト高杉くん>
打順には南十字学園打線随一の凡人、高杉。
(せっかく下位で作ったチャンスなのに、三者三振なんかで終わっちゃったらマズいぞ。チームの流れ自体が途切れる。ここはじっくり、簡単にアウトなっちゃダメだな……)
高杉は自軍ベンチを見た。すると、ベンチの最前列に出てきている紗理奈と目が合った。紗理奈は、笑顔を見せながら自分の胸を叩いた。そしてジェスチャーは「打て」。
(……そうか。何を俺は“凡退”を前提にして考えていたんだ。俺が打てば良いんじゃないか!)
高杉は紗理奈の笑顔に勇気を得た。
失敗を恐れず、初球から振っていった。
失敗を恐れるから凡人なのだ。
それを恐れなくなった高杉は、
凡人ではなかった。
カァーーン!
甘く入った初球を叩き、打球はショートの頭を越えて左中間に弾む。浅めのセンター大西が打球を拾ってショートの佐武に返す。二塁ランナーの月彦がホームに帰る。佐武がバックホームする。月彦が滑り込む。
「セーーフ!」
審判の手が広がると、月彦はそんな事はどうでも良いとばかりにユニフォームの汚れを気にして嘆き、対照的に一塁ベース上では高杉が大きくガッツポーズした。
(俺はみんなみたいに出来ないと思ってたけど……今に限っては、やれる気がしたぜ!)
ベンチで
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