魔神
[1/8]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
いつも、何かに怯えていた。
膝を抱え部屋の隅から1歩も動かず、母親が用意してくれた料理を食べる。外に出る事はせず、自分の部屋から出る事もせず、誰かと顔を合わせる事もしない。両親でさえも、最後に顔を見たのはもう何年も前の話だ。
全ての切っ掛けである魔法書を心の中で憎み恨み、“その魔法”が習得出来てしまった自分を呪い、その力を、彼自身を、己の欲望の為に使わせようとする周りの人間に対して憐みに似た感情を覚える。
(……なんで、こんな事に)
声に出さず呟くが、返事はない。
当然だ―――――彼は、孤独なのだから。
望んだ訳ではない。ただ、孤独になる以外の選択肢がなかっただけ。
もう誰も信じられなかった。周りの人間も、両親も、自分自身さえも。
時折見つめる窓の外の世界は、そんな事知る由もなく明るい。子供の燥ぐ声が聞こえる度に、彼は自分がどれだけ暗いかを知る。
でも、どうしようもないのだ。どうにかしようとしてもどうにもならない事に対して努力するほど、彼に力は残っていなかった。
「アラン…買い物、行ってくるわね」
扉の向こうから、母の声が聞こえる。
1人息子が顔も出さずに閉じこもっているのだ。1番心配しているのは両親のハズ。
だけど、2人は彼を無理矢理引っ張り出そうとはしなかった。
出てくるまで待つ事を選んだのだ。
まさかそのまま、3年もの月日が経つとは思いもせずに。
「…うん」
出た声は力なく、か細い。
静かな足音が遠ざかっていくのを感じながら、窓に近づく。
外は雪が降っていた。朝から子供の甲高い燥ぎ声が聞こえるのはその為か。
暖めてある部屋の中ではその寒さが解らない。窓を開けてみようか、とも一瞬考えたが、そんな覚悟もない。
さくさくと雪を踏みしめながら買い物に行く母の後ろ姿が見える。
白いコートに桃色のマフラー、後ろで1本の三つ編みに結わえられている灰色の髪が動きに合わせて小さく揺れていた。
「……行ってらっしゃい」
先ほど言えなかった一言を今更ながらに呟く。
物音1つ立てずに窓から離れると、彼はまた、座り込んだ。
苦々しい表情で唇を噛みしめるアランは、桃色の目を伏せた。
ある種の恐怖を覚えそうなほどに鮮明に覚えている当時の記憶に、楽しい事なんて1つもない。
残っているのは苦さと痛み、そしてほんの少しの後悔だけ。
「行くぞ」
“金牛宮”キャトルが呟く。
腕に装備している魔法籠手が淡く輝くのを視界に捉えたアランは反射的に身構えた。
「魔法籠手・剣形態!」
「!」
籠手が形状を変化させ、その先端が剣のように変換する。
ブオン!と空気を裂くような音を至近距離で耳にし
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ