第三章
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「そして?」
ここでアリアドネの雰囲気がさらに変わった。顔がさらに赤らみ息が激しくなってきていた。
「もう一つのものを勝ち得た方」
「もう一つのもの」
テーセウスはこれはわからなかった。目に怪訝なものを帯びさせた。
「それは一体」
「愛、です」
それがアリアドネの言葉であった。
「貴方は。それも手に入れられました」
「私が。愛を」
「そうです。それは」
おずおずとだが言うのであった。静かな様子で。
「私の愛です」
「そうだったのですか。貴女は私を」
「なりませんか?」
顔を見上げてテーセウスに問うてきた。
「私では。貴方には相応しくありませんか?」
「いえ」
その言葉を拒むテーセウスではなかった。静かに首を振った後で穏やかな言葉をかけるのであった。アリアドネに対して。
「私もまた。貴女なら」
「私で。宜しいのですね」
「はい、そうです」
またアリアドネに対して告げた。
「宜しければ。このまま二人で」
「はい、二人で」
どちらが先であっただろうか。お互いの手を取り合う。そうしてその手を互いの背にやり抱き合うのであった。それで充分であった。
「そうか。見事通り抜けたのだな」
王はダイダロスから話を聞いていた。白く長い髭に頑健な身体を持った老人こそがそのダイダロスであった。ギリシアきっての賢者と謳われている。
「はい、左様です」
「アリアドネはどうしているか」
「テーセウス殿に始終付き添っておられます」
ダイダロスはそれも述べるのであった。
「迷宮を抜けてからも」
「ふむ。それではだ」
王はそれを聞いて満足気な顔になる。それまでも満足した顔であったが余計にである。
「あの若者の願いも決まっているのだな」
「アリアドネ様ですか」
「望むものを与える」
王はその満足気な顔で言うのであった。その言葉を。
「それがラビリンスを潜り抜けた者への約束だからな」
「左様ですね。それでは」
「しかも。それだけではない」
王の満足気な顔はまだそこにあった。そうして言葉を続ける。
「今度はわしからの褒美だ」
「それは一体」
「このクレタもやろう」
そう言い切ってきた。
「アリアドネの婿になるのだからな。それも当然だ」
「クレタの王位もですか」
「最初からそのつもりだった」
王はここではじめて己の考えを明らかにしたのであった。
「ラビリンスを潜り抜ける者にな。やろうと思っていたのだ」
「そうだったのですか」
「あのテーセウスならば安心だ」
彼もテーセウスのことは知っていた。ギリシアにおいてヘラクレス等と並び称される勇者である。それで知らない筈もないことであった。
「だからだ。いいことになった」
「ですね。これでクレタも安泰です」
「その通
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