第三章 [ 花 鳥 風 月 ]
四十七話 歪み・綻び
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男が彼女に視線を向けながらそう問いかけてくる。
「い、いや何でもないよ――――大丈夫だ」
どちらにしろ選ぶのは虚空だ、と無理矢理自分に言い聞かせ神奈子は自身の感情に蓋をする。軍神としての性が彼女を律していた―――――それが幸なのか不幸なのかは分からない。
「さぁお兄様準備はすぐに出来るわ!これで漸く―――――」
「緊急故突然の事失礼致しますッ!!」
永琳が虚空の手を取ろうとした時部屋の襖が開かれ一人の正装をした男神が息を切らせながら部屋へと入り頭を垂れ天照に礼を取った。
「何事ですか?」
天照は先程までの不機嫌な表情を一瞬で消し何時もの大和の長としての顔で入ってきた男神に問いかける。
「はッ!御報告致します!熊襲を警戒中だった長門(今の山口県)の陣が奇襲を受け壊滅ッ!突破されましたッ!」
全ての物事はまま成らぬもの―――――更なる波乱が虚空を飲み込もうとしていた。
□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■
同時刻 虚空達がいる伊勢の都から西の方に位置する都市の通りを一人の少女がふらつきながら歩を進めていた。
『平城京』と呼ばれるその都市は人が治めている都市の中では最大級のものでありこの国の政の中心にもなっている。
都市の奥に建つ『平城宮』まで続く大通りを『朱雀大路』と呼びその大通りを軸に左京と右京と呼ばれる市街が広がっておりその街並みは規則正しさを感じさせる。
賑わいを見せる他の通りと違い少女が歩くその通りは解散としており少女以外の人影が無い。
実はそこは貴族街であり一般人が足を踏み入れる事など無い場所なので余程の事が無い限り人が通る事も無いのだが――――少女がそんな事を知っている訳も無かった。
「…………ざまァ見なさい永琳!――――と思っていた時期がわたしにもあったわ……自分がこんなにも間抜けだと思い知らされるなんて!」
少女――――輝夜は壁に手を付きふらつく身体を何とか支えながら目的地など無く只前に進もうする。
彼女は大和で行われる式典に父親である劉禅の名代として出席する為に地上に降りたのだが、実際の所は目的が違った。
そもそも父の代わりに地上に降りると自身で進言したのだ。理由は―――――永琳から逃げる為。
気が遠くなるほどの時間繰り返された実験は失敗しか積み重ねる事も無く最早輝夜にとっては無為な拷問でしかなかった。
逃げようにも月に居る限りどうしようもなくかと言って父親に事実を告げれば厳格な劉禅は自分も処罰しなければならなくなるだろう、と思い只時間だけが過ぎていたのだ。
そんな折持ち上がったのが大和の式典に
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