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アリアドネの糸
第一章
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らばその化け物を私が退治してやろう」
「テーセウス、それは本気か」
「無論です」
 父であるアテネ王にもそう言葉を返す。
「それにクレタ王にはこの前の敗戦で貢物を要求されています」
「うむ」
 実はアテネとクレタにはそうした因縁があるのだ。だからテーセウスとしてはそれを晴らしたいという気持ちもあったのだ。この辺りは中々複雑である。
「ですから。ここは」
「わかった。それではな」
 父王も彼の言葉が強いのを見てそれを認めるのであった。
「では。頼むぞ」
「はい、それでは今からすぐに」
「それでだ」
 ここで父王は我が子にまた声をかけた。
「自信は。あるのだろうな」
「なければどうして言いましょうか」
 彼は不敵に笑って父である彼にまた言葉を返した。
「御心配なく、それは」
「わかった。それでは期待しているぞ」
「何でしたらクレタの王にでもなってみせましょう」
 彼はその陽気な顔をさらに陽気にさせて笑って言ってみせた。
「褒美は思いのままだというではありませんか」
「それはそうだが」
「だからです。少なくとも悪いようにはなりません」
 そうはさせない。そういうことであった。
「では。これで」
「もう行くのか」
「送りの宴でしたら不要です」
 彼はそれは望んでいなかったのである。
「父上」
「うむ」
 あらためて父王に声をかけると父もそれに応えた。
「宴は帰った時に御願いします」
「その時にか」
「そうです。私は必ず帰って来ます」
 これは口約束ではなく絶対な自信があった。だからこその言葉である。
「ですから」
「わかった。それでは帰りには馳走を用意しておく」
 父王もそれを受けてこう約束するのだった。
「葡萄の酒とな。これでよいな」
「アテネ中で祝いましょう」
 テーセウスは陽気にまた言った。
「その時にこそ」
「うむ、それではな」
 こうしてテーセウスは父王と別れを告げクレタに向かった。そうしてクレタ王であるミーノスの前に現われた。クレタの宮殿はその繁栄を見せつけるかのようにかなり巨大で壮麗なものであった。
「ふむ、話は聞いている」
 黄金はおろか様々な宝石が玉座に飾られている。しかも宮殿全体が白い大理石でできておりまるで鏡の様に映し出している。その宮殿の王の前にミノスがいたのである。見れば逞しい茶色の髭を生やした美丈夫である。何処となくゼウスに似ているのは彼がゼウスの息子だからでもある。血筋的にも立派と言っていい人物なのだ。
「アテネ王の息子テーセウスだったな」
「はい、そうです」
 テーセウスはそのミノス王の前で片膝をついていた。そうして謁見していたのである。
「私がそのテーセウスです」
「ふむ、わかった」
 ミノス王はまずは彼の言葉を受けて頷くのであっ
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