第一章
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第一章
朝焼けの中で
太陽がゆっくりと昇りそれまで眠っていた街を照らしはじめる。俺はその中でまずは懐から煙草を取り出し口に含む。それを一口吸って大きく息を吐き出してから朝日を見る。赤い太陽がやけに大きく見えた。
他の奴等には何の変哲もない朝だ。けれど俺にとっては違う。今の朝は苦い朝だった。よくあることと言えばよくあることだ。ダチが死んだ。交通事故で昨日の夜死んだ。それもよくあることだ。よくあることだけどそれでも俺は苦い気持ちの中にいた。
親にも見捨てられて誰にもわかってもらえなかった俺がやっと巡り合ったたった一人のダチだった。ずっと一人だった俺の側にいてくれて笑顔で話をしてくれた。俺と一緒に何か打ち込めるものを探してくれてそれを見つけてくれた。音楽だった。
俺がヴォーカルであいつがギターだった。あいつのギターに合わせて俺が歌う。俺達は二人で街角で歌って学校で歌った。少しずつ有名になってインディーズからメジャーでデビューすることになった。その矢先だった。あいつはバイクで大怪我をした。俺が病院に来た時にはもう手遅れだった。青い顔をして白いベッドの上に横たわっていた。その顔を見て俺は何も言えなかった。
「これ、頼む」
指差したのはギターだった。あいつが弾いていたギターだった。
「俺だと思ってくれ」
「ああ」
俺は一言だけ呟いて頷いた。あいつが出してくれたギターを手に取った。あいつはそれを見て笑ってくれた。それが最後だった。
笑ったまま死んだ。今さっきだ。俺は病院から出て今朝焼けを見ながら煙草を吸っている。くゆらぐ青い煙を見ながらこれからのことを考える。もう一人じゃない。
「ギターがあるからな。あいつの」
俺はそのギターのことを思いながら朝焼けの中で誓った。あいつの分までやってやる。それを今誓った。
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