第百七十三話 信行の疑念その十二
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「危ういかと」
「そうじゃな。しかしじゃ」
「ここはですか」
「うむ、あえてじゃ」
これからのことを考えだというのだ、柴田は。
「ここはな」
「その危険を犯してでもですか」
「そうしなければならぬ」
必ず、というのだ。
「さもなければならぬ」
「厳しいですな、それはまた」
「嫌ならよい」
柴田もだ、無理強いはしなかった。
「相手が相手じゃ、厳しい戦になるからな」
「だからですか」
「死を恐れぬ者が加賀に入れ」
こうまで言うのだった。
「そして上杉と戦うのじゃ」
「越後の龍と」
「さもなければ加賀は守れぬ」
その北は、というのだ。
「そうだからじゃ」
「左様ですか」
「わしはそう思う」
柴田は強い声で言った。
「この度の戦はな」
「では権六殿」
今度は羽柴が彼に言ってきた。
「この度、守れる自信は」
「川を渡ってもじゃな」
「押し返されぬ自信は」
「ある」
一言でだ、羽柴に答えたのだった。
「あるから言うのじゃ」
「そうなのですか」
「わしは殿のご期待に応え」
そして、というのだ。
「兵達を無駄に死なせはせぬ」
「だからでありますか」
「川を渡るのじゃ」
こう言うのだった。
「そうするぞ」
「ではそれがしも」
羽柴は柴田の話をここまで聞いて言った。
「共に」
「来るか、御主も」
「一度です」
ここで言ってきたのは石田だった、彼等織田家の比較的若い将帥達も早馬で加賀に向かっているのである。
「北ノ庄において」
「そこで一旦兵と合流するがな」
「川を渡る者と渡らぬ者を決められては」
「それぞれ選ばせるか」
「はい、そうされてはどうでしょうか」
こう柴田に言うのだった。
「ここは」
「では手を挙げた者だけが行くか」
「そうされては。ただ」
「北ノ庄に残さねばならぬ者はおるな」
「はい」
このことも言う石田だった、ここまで頭が回るところがこの男だ。
「その者が残りたいと言ってもです」
「北ノ庄は北陸の要害じゃ」
越前だけのことではない、織田家が築かせている北陸における織田家の政の最大の要地になっているのだ。
だからだ、この城においてなのだ。
「あの城から兵糧や武具を送らねばならん」
「それだけにですな」
「はい、あの城には然るべき者を残しましょう」
絶対にだというのだ。
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