第百七十三話 信行の疑念その十
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「我等の目を見せればな」
「操れますからな」
「義昭殿は言葉だけで動かせる」
彼等のそれでだというのだ、その目を使わずともというのだ。
「津々殿は目を使われたがな」
「織田信長の弟にでしたな」
「上手くいくと思ったが」
信行、彼にはというのだ。
「あの時はな」
「ですな、しかし織田信長は我等が思った以上に鋭かったです」
崇伝は苦い顔で述べた。
「それも遥かに」
「そして織田家のまとまりもよかった」
「思っていた以上に」
「ですから」
それでだというのだ。
「津々殿は果たせませんでした」
「残念なことにな」
「朝廷もどうも」
「高田殿もか」
「朝廷は結界が恐ろしいまでのものが幾重にも張られています」
「そうじゃな、あの場はな」
「はい、高田殿は何とか朝廷の中に入られていますが」
しかしだというのだ、その中に入っていても。
「それ以上は」
「勧めておらんか」
「無念なことに」
そうだというのだ、朝廷もまた。
「公卿の者達もあの中にいるからな」
「結界の中に」
「それでじゃな」
「朝廷も手出し出来ませぬ」
中々だ、それが出来ていないというのだ。
「陰陽道、神道、仏教と結界の塊ですから」
「実に忌々しいわ」
天海はそうしたもの全てに対して極めて腹立たしげな感じで言った。まるでその存在自体は気に入らない様に。
「そもそも我等を弾き出したのは朝廷じゃ」
「ですな」
崇伝も天海のその言葉に頷いて応える。
「神武の頃より」
「忌々しい名じゃ」
天海はその名についても言った。
「実にな」
「天皇の名はどれも」
「あの厩戸皇子にもどれだけやられたか」
この名も出した天海だった。
「だからな」
「朝廷もまた倒さねば」
「この国の全てのまつろっておる者達をな」
それこそ、というのだった。
「地獄に落としてやらねば」
「はい、ですから」
「その為にも我等は幕府に入っておる」
「そして将軍を操っております」
「折角あの厄介な将軍を倒した」
義輝をというのだ。
「だからこそな」
「何としても幕府を動かし」
「織田家と戦わせてな」
「天下を乱しましょう」
「うむ、そうしようぞ」
こう二人で話してだった、そのうえで。
二人の妖僧達も手を打っていくのだった、彼等の手を。
そうした話をしてだ、ここで。
今度は崇伝からだ、こう天海に言った。
「ところで今から酒を」
「二人でじゃな」
「如何でしょうか」
「よいのう」
笑顔でだ、天海は崇伝のその申し出に応えた。
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