第百七十三話 信行の疑念その九
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「遂にな」
「そうですな、では」
「ここで」
「戦国の世からこの国は永遠に戦が続きまつろわぬ国になる」
このことを思いだ、声には闇の笑いが入っていた。
「そしてな」
「はい、では」
「いよいよ」
「この度の織田と上杉の戦は余興じゃ」
影はこれから起こる大きな戦はそれに過ぎないと述べた。
「ほんのな」
「肝心なことはですな」
「先ですな」
「本の少し先ですが」
「まだ、ですな」
「うむ、先じゃ」
まだだというのだ。このことは。
そのうえでだ、影は今度はいうかしげに言った。このことを。
「しかし御主達も高田もそれぞれ動いてくれているが」
「松永殿ですな」
「あの御仁ですな」
「一体どういうつもりじゃ」
怪訝さを一切隠さない言葉だった。
「あ奴は」
「さて、それは」
「どうにも」
わからないとだ、返す二人だった。
「我等にも」
「あの御仁のことは」
「我等は裏切れぬ」
それはだ、決してだというのだ。
「何があろうともな」
「我等の血はですな」
「何があろうとも」
「闇の血は光のそれよりも強い」
遥かに、というのだ。
「だからじゃ」
「はい、何があろうとも」
「あの御仁にしても」
「そうじゃ、必ずな」
何があろうともというのだ。
「あの者も従わねばならぬのだ」
「我等一族に」
「必ず」
「十二家の一つの棟梁じゃ」
松永、彼はというのだ。
「その棟梁が何故裏切れる」
「それは出来ませぬ」
「我等にしても同じです」
天海と崇伝はここで彼にこう言った。
「ですから」
「絶対に」
「その通りじゃ。だからあ奴も必ず従う」
そうなるというのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
「あの御仁も何時か従いますので」
「その時は必ずな」
「織田信長をですな」
「あの者の寝首を」
「取ってもらおう、あ奴はそうしたことが得意じゃ」
松永をよく知っている言葉だった、実に。
「だからな」
「はい、では」
「我等は今は」
「幕府を動かせ」
即ちだ、義昭をというのだ。
「ではよいな」
「はい、わかりました」
「それでは」
二人は幕府を動かすことを影に約束した。その言葉を聞いてだった。
影は二人の場を後にして消えた、その影が消えてからだった。
天海は崇伝にだ、こう言ったのだった。
「ふむ、それでは崇伝殿」
「ですな」
崇伝もその天海に応える。
「ここは」
「共に幕府を動かそうぞ」
「おそらく前の将軍ではこうはいきませんでした」
「義輝殿ではな」
「あの方は確かな心を持ち強いものがありましたので」
「例え賢くとも心が弱ければ」
そうした者ならというのだ。
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