第百七十三話 信行の疑念その七
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「余への忠義を忘れるからじゃ」
「全くです、それでは」
「今度の戦のことは」
「上杉じゃ」
またこの家の名前を出す。
「あの者に任せよう」
「ですな、それでは」
「これよりは」
「女を呼んで参れ」
今も飲みつつ言う義昭だった。
「共に飲めと伝えよ」
「はい、わかりました」
「それでは」
「御主達も飲むか」
女と共にだとだ、義昭はすっかり酒に酔っている顔で問うた。もう目は酔漢のそれに完全になってしまっている。
「そうするか」
「いえ、折角の申し出ですが」
「拙僧達は」
「そうじゃった、御主達は僧じゃったな」
「はい、申し訳ありませぬが」
「ですから」
「そうじゃな、ではよいわ」
義昭もこのことを納得して述べた。
「それでは余だけで楽しもう」
「それでは拙僧達は」
「ここは」
「うむ、そういうことでな」
こう言うのだった、そして。
二人の僧侶は義昭の前から退出した、義昭は今度は酒だけでなく女も楽しむのだった。彼等が御所の隅に退くと。
二人の前に影が出て来た、そのうえで彼にこう問うてきた。
「順調じゃな」
「はい、こちらは」
「幕府の方は」
二人は影の問いに微笑んで答えた。
「足利義昭、最早です」
「我等の手の中にあります」
「あの者はたやすいな」
「完全に我等の言うがままです」
「何でも聞きます」
「ならよい」
影は二人の言葉に言葉で頷いて応えた。
「それではな」
「やがてはですな」
「時が来れば」
「うむ、幕府に兵を起こさせよ」
乃ちだ、信長と戦わせろというのだ。
「よいな」
「そして織田の後ろをですな」
「刺させますな」
「そうするのじゃ。織田と本願寺の和が終われば」
その時はというのだ。
「よいな」
「はい、では」
「その時にこそ」
「本願寺が動きじゃ」
そして、というのだ。
「武田、上杉、北条、毛利を動かしじゃ」
「幕府もですな」
「挙兵させて」
「その時はどの家も共倒れにさせる」
織田だけでなく、というのだ。
「殆どの色の家をな」
「全て、ですな」
「ここで」
「そうする。色は光じゃ」
まさにだ、それだというのだ。彼等から見れば。
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