第三十二話 真打ち
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初球を投げ込んだ。
「ん!」
「ボール!」
左のアンダースローから放たれたストレートは、左打者の権城の背中越しに来る角度で、頭の近くに飛んできた。125キロでも、しっかり指にかかったキレ抜群のストレートである。
「……あいつ、左のインコースなんて覚えたんすっね。中学時代はクロスファイアーしか投げないつまらんピッチャーだったのに」
「努力したんだよ」
大友は笑っているが、しかし権城の見送り方に内心驚いていた。
(……普通この角度で頭の近く来たら避けるだろ。こいつ、踏み込んできたぞ?)
大友の内心の呟きを知るよしもない権城は、バットをクルクル回して脱力しながら、飛鳥の攻略を考える。
(こいつは左アンダーの横の角度で球を速く見せて、打者の遠近感狂わせてボール球振らせるのが生命線だからなあ。あと、左にとっては、リリースポイントが背中越しで、視界の端で捉える事になるから、それも打ちにくいんだろう。……普通の左なら、な)
権城は意識的に、首を一塁側に捻じった。右肩はマウンドに向かって一直線の角度を保ち(この角度をリリースポイント向けて一塁側に開くと、今度はアウトコースに手が届かなくなる)、視界だけを飛鳥のリリースポイントに調整した。それができるくらい、権城は身体が柔らかい。
(視野広くとって、こいつの角度のマジックに対応してやれば、せいぜい飛鳥は普通の“良いピッチャー”だ。)
変則投法への対策の後は、配球。
権城には見当がついていた。
(左に対してはスライダーで三振取りたいだろう。無様にクルクル回してやりたいとか思ってんだろ。その外スラを生かす為に、努力で身につけたとかいう……)
権城は飛鳥のリリースポイントをしっかりと見て、背中越しに飛んでくる軌道に対して、背中をぶつけるように踏み込んだ。右肩がピッチャー方向を向いて開かないままに、バットを内側から出す。
(このインコースでカウントをとってくる!)
インコース、懐に背中側から飛び込んでくるストレートに対して、ボールの内側を叩くようにバットを出して振り抜いた。
左対左、不利な条件を打ち砕くような理想的なスイングだった。
カァーーン!!
快音が響いた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「……嘘……」
打たれた飛鳥は衝撃を受けた顔で、その打球を見送る。放物線を描いた打球は、ライトスタンドにポーンと弾んだ。
「おしっ!」
権城は小さくガッツポーズし、小走りでダイヤモンドを回る。
(おいおい、左対左だぜ?なのに全く右肩を開かなかったなぁ、おい?インコースを引っ張ったのに、全く打球が切れていかなかったし、これが“練習不足”のバッティングかよ。中学時代より更に上手くなってやがる。)
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